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104.正妻は誰?

 父親と会う日が決まった。

 思った以上にあっさり決まって少なからず驚いた。仕事が忙しいことを理由に無視される可能性も考えていたくらいだってのに拍子抜けだ。


『ただし、あまり大勢で来られても困ります。連れてくるのは夏樹様と、あと一人にしてください』


 と、会長の秘書と名乗る女性に釘を刺されてしまった。

 できれば俺の女たち全員を紹介したかったのだが。というか俺が複数の女とお付き合いしていることについては何も言わないんだな。まあ父親が父親だしな、という風に思われただけなんだろうが。


「そんなわけで、俺と一緒に父親に会いたい人ー」


 アパートに俺の女たちを集合させて、父親と会う約束を取りつけたと説明した。


「晃生くんのお父さんかぁ……」

「なんか怖そうだよねー……」

「と、突然のことで心の準備ができていません……」


 誰の手も挙がらない。とくにピンク、金、緑の同級生組は気後れしていますとビシビシ伝わってきた。


「エリカはどうだ?」


 この中で一番の年長さんに打診してみる。


「えっと……」


 エリカは困ったように苦笑いする。


「私が行くと、その……問題があるんじゃないかな? ほら、大学生が高校生に手を出してしまったというか何と言うか……」


 今更そんな倫理観を持ち出されても。エロ漫画世界だからそういうもんだと受け入れていたし、エリカが気にしているとは考えていなかった。


「違えよ。俺がエリカに手を出したんだ。こんな良い女がいたら手を出さずにはいられねえだろ?」

「晃生くん……」


 青のセミロングが俺の肩に寄りかかってくる。エリカの重みを感じたくて、彼女の肩を抱いた。


「でもエリカさんが一番安心できますよねー。お嬢様だし、美人だし、絶対受けが良いですって」


 羽彩がエリカを持ち上げる。素直な気持ちなんだろうが、自分は行きたくないとも顔に書いてあった。


「氷室ちゃんはそんな風に言ってもいいの? 晃生くんのお父さんにあいさつするんだよ? つまりここで行く人が私たちの代表……晃生くんの正妻ってことなんだから」


 エリカの「正妻」発言に、同級生組が一斉に色めき立つ。


「晃生くんの正妻……」

「アタシが晃生の一番に……?」

「正妻の座……す、すごく良いです……」


 ゴクリ。生唾を飲み込む音が重なった。

 一斉に三人の手が挙がる。ピンク、金、緑が互いを見合って、火花が散った。


「ここは優等生の私に任せなさい。成績優秀、文武両道、眉目秀麗。私なら晃生くんのお父様にも気に入られると思うわ」


 自信満々に胸を張ったのは日葵だった。けっこう自分に自信のある彼女は自己PRを続ける。


「うっさいナルシスト。そうやって自分のことばっかだと……なんて言うの? そうだ! 大和撫子っぽくないっての」


 羽彩は日葵に噛みつく。ナルシストと言われてカチンときたのか、自称優等生は頬を膨らませる。


「まあまあ。こういう時に冷静になれないようでは本番が心配ですよ。ここはあたしがアキくんをサポートしますので安心してください」


 争う二人を見てか、梨乃はさらりと漁夫の利を得ようとする。これには日葵と羽彩が目を吊り上げて阻止する。


「なかなか決まらないねー」

「そうだな」


 ぎゃあぎゃあと言い合いをする三人を眺めながら、俺とエリカはイチャイチャしていた。

 互いの体温を感じ合い、唇を重ねる。吐息すら気持ち良くて、段々気分が盛り上がってきた。


「いったん冷静になりましょう。一緒に行くのは晃生くんだけではないわ。問題は音無先輩よ」

「うっ……。そういえばあの先輩も一緒だったか」

「あたしは実際に話したことはないですけど、悪い人ではなさそうですよ?」

「何言ってんのりのちん。なんかよくわかんないけど、あの人はアタシを利用しようとしたんだよ。なんかよくわかんないけど!」

「私を生徒会に誘っていたのも、晃生くんに近づくためだったのでしょうね。油断ならないわ。婚約者というのも怪しいものね」


 話し合いは音無先輩への対応をどうするかということに移っていく。

 俺は考え込む同級生女子を眺めながら、エリカの柔らかさに埋もれていく。


「ただでさえ晃生くんのお父様へのあいさつがあるのよ。そのうえで、音無先輩に好き勝手言いくるめられないように警戒しなければならないわ。それを考えると、やっぱり私が適任だと思うの」


 日葵はさらに自分を推していく。

 日葵なら音無先輩に何を言われようが、思い通りにばかりはさせないだろう。度胸もあるし、父親の前でも緊張して自爆する心配もない。


「ぐぬぬ……。確かにそうだけど……そうだけどー」

「あたしも緊張しない自信がありません。アキくんのお父さんってとっても偉い人なんでしょう? あいさつだってまともにできるかもわからないのに、音無先輩のことまで気が回りませんよ」


 なんだかんだで羽彩も梨乃も、日葵の優秀さを認めているのだ。

 悔しさを滲ませながらも、この状況は日葵に任せるしかないと結論が出たようだった。


「それでも……それとこれとは別だから! アタシは晃生の正妻がいい!」


 結論は出たが、それでも羽彩は噛みついた。

 俺の一番になりたい。その気持ちだけは引っ込められなくて、金髪ギャルは俺への想いを主張する。


「アタシはずっと晃生のことが好きだったの! ここ最近性格が変わったけど、そんな晃生をもっと好きになった。この大好きな気持ちだけは誰にも負けないから! 絶対、絶対に負けないから!」


 羽彩は顔を真っ赤にさせながらも、俺への気持ちを一所懸命に吐き出す。


「羽彩ちゃん……」

「可愛いですね……」


 真っ直ぐな純粋な気持ち。それを真正面から受けた日葵と梨乃は眩しいものでも見たかのように目を細める。


「はぁはぁ……。あれ? ひまりん? りのちん? な、何その顔? って、なんで抱き締めてくんの!?」


 日葵と梨乃が羽彩を抱きしめる。二人の巨乳美少女に挟まれて、金髪ギャルは困惑した。


「わかったわ。正妻の話はまた今度決着をつけましょう。でも、今回は私に任せてもらえるかしら?」

「……うん。アタシたちの代わりに、晃生を支えてやってね」


 どうやら話はついたようだ。

 俺の女たちは全員信頼できるからな。一緒に行くのが誰だったとしても、俺は胸を張って紹介できただろう。


「晃生ー、話は終わった……よ」


 俺の方へと顔を向けた羽彩が固まった。同様に日葵と梨乃も固まった。


「んっ、晃生くん……もっと♡」


 三人は話に夢中になりすぎて、俺とエリカがスッキリしていることに気づかなかったようだ。


「せ……」


 羽彩がプルプルと震えながら目を吊り上げた。


「正妻戦争はこれからだぁーーっ!!」


 てなわけで、正妻戦争はまだまだ続くらしかった。



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