「お、おい。やめとけって……」
「うるせえっ! だってずりぃじゃねえか! さっき眼鏡の可愛い子ちゃんを彼女っつってたのに、この男は金髪ギャルと清純派美少女まで俺の女って言ったんだぞ……。世間がハーレム婚を許しても、俺は認めねえ!」
見た目がチャラ男なのに、陰キャの嘆きみたいなことを叫んでやがる。
つーか清純派美少女って誰のこと言ってんだ? この世界はどうしても日葵を淫乱ピンクとは認識しないらしい。
……それにしてもハーレム婚は当然のように認知されているんだな。若者の方が最初からそういう制度があるのだと学んで育った分、それが常識になっているのだろう。
漫画の世界だけあって、俺が知っている日本とはところどころで違う常識ってもんがある。その違いを知ってから、常識的なことでも調べるようにしていた。
以前梨乃に、珍しくはあるが複数の女子と付き合う男子はいるのだと聞いたことがある。
それに関して彼女に嫌悪感はないみたいで、むしろ度量があればとくに問題ないといった考えのようだった。実際に日葵をはじめとして、俺の女たちは他に女がいても、自分も愛してもらえるなら構わないと言ってハーレムを受け入れている。
受け入れやすい土壌を作っているのは、ハーレム婚という制度だ。
一応結婚は一夫一妻が基本なのだが、いくつかの市はハーレム婚を認めている。少子高齢化や過疎化対策などがその言い分だ。と、いうのは表向きの理由で、実際は政府に圧力をかけて実行させてしまったトチ狂った奴がいるからである。
とはいえ、ハーレム婚ができてまだ数十年しか経っていない。大人の中には、考えが馴染まないのかこの制度を受け入れられない人がそれなりにいるらしい。
ただ、ハーレム婚を成立するためには複数の女をまんべんなく愛せることや、養えるだけの収入があるかなどの審査がある。その難しさもあってか、大多数には関係ないものではあった。
裏を返せば、ハーレム婚が可能という時点で優秀で魅力的な男という証明でもあった。そんな男のハーレムになった女も、世間では勝ち組として扱われる。確かに否定的意見はあるが、それも年々減少しているようだ。
……うん、さすがはエロ漫画世界だ。男の都合良い世界に仕上がってやがる。
もちろんこんな世界で得をするのは優秀な竿役である。つまり俺だ。合法的にハーレムが認められているって最高だよな。ただし竿役に限る。
「ぐぎぎ……。なんかすげームカつくこと考えてる気がすんぞ」
「そりゃあ被害妄想だ。まっ、あんたたちもがんばってくれや」
「そんな目で見るんじゃねえ! くそっ、やっぱり勝負して見返してやるっ」
ナンパ男は目的を忘れて俺に突っかかってくる。はぁ~、面倒くせえ……。
◇ ◇ ◇
ビーチ・フラッグスという競技がある。
夏のバラエティ番組で見たことがある。砂浜で何本かの旗をそれよりも多い人数で競い合って取るスポーツである。
元はライフセーバーが走力や反射神経を鍛える訓練なんだとか。ただの遊びとしか捉えていなかったが、そう言われると考えが変わる。溺れている人を迅速に救助するために、日々がんばってくれているライフセーバーの方々には頭が下がる思いだ。
「スタートの合図で走って、先にあのバトンを取った方が勝ちだからな」
ナンパ男が準備体操しながらルール説明をする。
離れた場所に一本のバトンが砂浜に突き刺さっている。距離はおよそ二十メートルほど。ダッシュして先に俺が取れば勝ちだ。
別にナンパ男の勝負とやらに乗ってやるつもりはなかったのだが、「俺が怖いからって逃げる気かよ」という煽りに羽彩が噛みついたのだ。ヒートアップした彼女を止められず、あれよあれよという間にこんな事態になってしまった。羽彩は後で泣かす。
「へっ、度肝を抜かしてやるぜ」
ナンパ男は脚力によほどの自信があるようだ。まだ始まってもいないのにニヤニヤ薄笑いを浮かべている。
スタート地点で後ろ向きになって、砂浜にうつ伏せになる。後は合図を待つだけだ。
「あれ、晃生くんは何をしているの?」
始まる前に席を外していたエリカたちが戻ってきた。梨乃は興味津々とばかりに眼鏡を光らせ、さなえさんは事態を察したのか呆れた顔をしていた。
「晃生くんがんばってー!」
「晃生ー! 絶対に負けんなー!」
日葵と羽彩の応援が聞こえてくる。ナンパ男は青筋を立てながら「勝って俺の良さを教えてやる」なんて呟いていた。って、まだ諦めてないのかよっ。
まあ、結果だけをいえば俺の圧勝だったのだが。競技の描写? しなくてもわかり切っていただろ。
「ふっ、身体能力がものをいう競技で俺に勝とうなんざ百年早え」
俺がキメ顔でそう言うと、歓喜した羽彩が俺の胸に飛び込んできた。それに続くように日葵、エリカ、梨乃の順で身体をタッチされる。
「やったね晃生! さっすがアタシの彼氏!」
無邪気に喜ぶ羽彩の頭を撫でる。下を向くと俺の胸に押し潰されている柔らかいものが二つ……。うむ、もっとぎゅっとしてもいいぞ。
「私も脚の速さには自信があったのに。羽彩ちゃんのスタートが良すぎたわね」
「この遊び面白いわ。ゴールが晃生くんならやる気が出るしね」
日葵とエリカの口ぶりから、俺を旗に見立ててビーチ・フラッグスをしていたのだろうと予想できた。勝手に俺をゴールにして遊んでんじゃねえよ。
「はぁ……はぁ……。あ、あたしは運動が苦手ですから……。こんな勝負に勝てるわけがないじゃないですか~」
ビリになった梨乃が膝に手をついて呼吸を整える。いや、遅かった分だけ大きく揺れる膨らみをじっくり観察できたからな。今も大きく胸を上下させている姿なんてとても目の保養になっている。これは試合に負けて勝負に勝ったといえるのではなかろうか。……やべぇ、俺の頭ん中ピンク色に染まってんな。
「くそ……くっそおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーっ!!」
ナンパ男は勝負に負けて、さらに目の前で最高の女たちに囲まれる勝者の姿を見せつけられて絶叫した。その声には雄として完全敗北した嘆きが多分に含まれていた。
◇ ◇ ◇
ナンパ男たちを撃退(?)した後も、俺たちは海を楽しんだ。
「あっ……♡ 私の身体は……晃生くんに独占されるためにあるのよ……。だから、もっと好きに扱ってくれても構わないわ♡」
「は、反省するからぁ……。もう晃生以外の男にエッチなところ見せないからぁ……。だから……きゃんっ! ゆ、許してぇ……♡」
ビーチボール大会が行われていたので、それに参加した日葵と羽彩が観客の男どもの視線を集めてしまった。俺以外の男の前で、たわわに育ったボールを揺らしている姿を見せた二人にイライラしたので、岩場の陰でスッキリさせてもらった。
「あんっ。こんなところでしたいだなんて……晃生くんのエッチ♡ んんっ……でも、私もいつもよりドキドキしてる……ほら、触って確かめてみて♡」
海の家でボートを借りたので、エリカと一緒に乗って海を漂ってみた。途中悪戯心がくすぐられたのか、エリカがいろいろと揺らしてボートをひっくり返してしまった。そんな悪いことをする女にはお仕置きと称して、岩場の陰でスッキリさせてもらった。
「はうぅ……っ。すごっ……♡ アキくんの熱いモノが奥に当たっています……。んっ、んっ、んあっ! こんなに強くぶつかってるのに、あたし……もっと欲しくてたまらなくなっていますぅ♡」
泳ぎが苦手という梨乃にはコーチをしてやった。海で手を引いてやるが、失敗したと言いながら何度も俺に抱き着いてきた。それがわざとだったと気づいて、罰として岩場の陰でスッキリさせてもらった。
「そろそろ旅館に行くわよー!」
夕日で赤く染まるまで、俺たちは海を楽しんだのであった。さなえさんはゆっくり読書をしていたらしく、俺たちの遊びにはまったく気づいていないようだった。
そして、俺たちは今晩宿泊する温泉旅館へと向かったのであった。