「君、美人さんだよね。俺一目惚れしちゃったかも」
「あの、突然そんなことを言われても……」
「心配しなくてもいいって。こいつが変なことしないように俺が見張っててあげるから。それにほら、こんなところで座っているよりも俺らと遊ぶ方が絶対に楽しいからさー」
「私は連れを待っていますので。あなたたちについては行けません」
「あららー、お姉さん見かけによらず強気なんだねー。……俺そそられちゃったかも」
「はぁ……。どうして面倒ごとばかり私に降りかかるのかしら」
さなえさんは海をナンパスポットくらいにしか考えていなさそうな男たちに言い寄られていた。
確かにさなえさんは梨乃に似ていて、外見は大人しそうな眼鏡美女だ。しかし、子持ちの母親である。
「お母さん……」
母親がナンパされている現場を目撃して、娘はどんな気持ちになるのだろうか? 俺には梨乃の気持ちを推し量れない。
「まあまあいいじゃんいいじゃん。連れの子も一緒でもいいからさー。お友達もお姉さんみたいに可愛い子なら、俺ら仲良くできる自信あるよ?」
「ちょっとっ! 大声出しますよ!」
さなえさんが男の一人に手首を掴まれた。これには大人の余裕を保っていられないようだ。
「アキくんっ」
「わかってるって」
安心させるように梨乃の頭を軽く撫でてから、ナンパされているさなえさんの元へと向かった。
「連れの子が一緒でもいいってんならよ、俺がついて行ってもいいってことだよな?」
「あ? お兄さん誰……ってデカッ!?」
さなえさんの手首を掴んでいた男が、俺を見た驚きで手を離す。
力自慢の寝取り竿役ボディだからな。その辺のチャラ男では相手にならんよ。
「なんて筋肉してやがんだ……」
「顔も怖えし……」
「でも、なんか憧れる……」
男たちは俺を見てビビり散らかしている。
海でナンパするだけあって、男たちもそれなりに引き締まった身体をしている。たぶん何かスポーツをやっているのだろう。
それでも、郷田晃生の足元にも及ばない。こっちも激しい運動ってのを毎日ヤッてるからな。鍛え方が違うぜ。
「へっ……。俺らお姉さんを遊びに誘ってるだけだよー。つーか連れってお兄さん? なんか意外だなー」
俺みたいな強面が現れたってのに、ナンパを諦め切れないのか立ち去ろうとしない。そういうところで根性見せんじゃねえよ。
「お兄さんなら一人でも遊べるよね? 俺らがお姉さんを借りても、文句ないよな?」
ヘラヘラと凄んでくる。もしかして人数が多いから勝てるとでも思ってんじゃないだろうな?
「やめとけ。嫌がっている女をどこに連れて行こうってんだよ?」
「お姉さんはちょっと驚いちゃっただけだよねー? 俺らと一緒ならお兄さんよりも楽しい思いをさせてあげられるよ。こんなところで一人待たせている男よりも、よっぽど良い思いをさせてあげるって」
さなえさんがため息をつく。今だけは彼女の気持ちがよーくわかった。
俺はちょいちょいと手で合図を送る。梨乃が俺の隣に並んだので肩を抱いた。
「お母さん大丈夫?」
「り、梨乃っ。今は危ないわ。ここから離れなさい」
梨乃の登場で、さなえさんをナンパしていた男たちの動きが固まった。
「え、お母さん? 今お母さんって言った? お母さんって何? 人妻って嘘だろ? 姉の間違いじゃ……」
困惑する男たちに、俺は事実を言い放った。
「その人は俺の彼女の母親なんだけど、それでもアンタらはナンパすんのか?」
絶句する男たち。日焼けしていても顔が青くなっていくのがわかった。
「「「す、すんませんでした……」」」
力なく謝って、男たちはようやく諦めてくれた。
安全を確認できたところで全員パラソルに戻ってくる。
「ナンパされるなんて、おばさんもやりますね」
「からかわないでよ日葵ちゃん。恥ずかしかったんだから」
日葵にからかわれても、さなえさんは恥ずかしがったり照れたりしている様子はない。心底疲れたって雰囲気をかもし出していた。
メインヒロイン級の美少女がこんなにもいるのだ。ナンパされる可能性を考えてはいたが、まさかその最初がさなえさんだとは想像していなかった。
人妻だろうが油断できねえな。まあ未亡人だし、男が放っておかなくても不思議じゃないのか?
「ナンパ男を追っ払ったんだしさ、早く昼ご飯食べに行こうよー。アタシお腹ペコペコなんだけど」
「そうだね。早くかき氷を食べたいよね!」
「エリカさん……。かき氷はご飯に入らないですよ」
「そうなの!?」
羽彩とエリカも待ちきれないようなので、俺たちは昼飯を求めて海の家へと向かった。
たくさんある海の家の中で、あまり混雑していないところを選んで入った。
「へいお待ち!」
元気の良い店員さんが出してくれたのは具のないカレーに具のない焼きそばだ。これぞ海の家って感じのメニューである。
「この雑な感じが美味えんだよな」
「わかるー。海で食べる焼きそば超美味しい♪」
海の家の良さで羽彩と意気投合する。具がないのが逆に良いまであるよな。
「かき氷美味しー♪」
エリカは初のかき氷にご満悦だった。これくらいで喜んでくれるのなら安いものである。
「さて、と。トイレに行っておくか」
「行ってらー」
海の家のトイレを借りて戻ってくると、日葵と羽彩が男連中にナンパされていた。他のメンバーはトイレにでも行ったのか見当たらない。
まあ、あれだけ魅力的な女だ。男なら放っておかないだろう。
「って、お前らも懲りねえな」
「あ? さっきのお兄さん……。今回は関係ないでしょ。邪魔しないでもらえる?」
ナンパしていたのは先ほどさなえさんをナンパしていた連中だった。
頭をがしがしとかく。優しく言ってもなかなか諦めてくれないのは経験済みだ。
仕方がない。俺は日葵と羽彩の肩を抱いた。
「きゃっ♡」
「晃生……♡」
身体を密着させただけで、二人の美少女は頬を染めてメスの顔になった。
「この二人も俺の女だから。手を出さないでもらえるか?」
日葵と羽彩の反応から、俺の言葉が嘘ではないとわかったのだろう。男たちは沈黙した。
「ちょっと待ったーーっ!!」
だが、男たちの中で一人だけ声を上げる者がいた。
「ずりぃ……ずりぃよ! なんで可愛い娘ばっか取っていくんだよ! 理不尽だ!!」
「んなこと言われてもな」
「こうなったら勝負だ! 俺と勝負しやがれ!!」
「はあ?」
チャラ男が勝負勝負と連呼する。大の男が駄々っ子みたいに騒ぐんじゃねえよ。