「荷物番は私がするから。あなたたちは思う存分遊びに行ってらっしゃい」
と、自称できる大人のさなえさんがそう言ってくれたものだから、俺たちはご厚意に甘えて海遊びへと繰り出した。
このまま海へ直行したいところだったが、その前で俺たちは足を止めることになる。
「海って何をして遊ぶ場所なんですか?」
青い海を前にして、梨乃はそんな今更な疑問を口にした。
「何をしてって……梨乃は海に来たことがないのか?」
「いいえ、去年も来ましたし。でもこうやって水着に着替えて本格的に遊ぶということがなかったもので」
「は? 水着に着替えもしないなら海で何をしてたんだよ?」
泳いだり潜ってみたり、水着なしでできることが思いつかない。ボートに乗って遊ぶなら水着はいらないか?
梨乃の答えは、そんな俺の予想とは違ったものだった。
「海は眺めているだけで楽しいですから。波の音を聞くだけで心が落ち着きます」
梨乃はそう言いながら海を眺めていた。賑やかな海水浴場なので落ち着く場所ではなさそうだがな。
つーか、それって楽しいのか?
「りのちんは大人の楽しみ方をしているんだねー」
のほほんとした感想を口にする羽彩。適当なこと言っている感がすごいな。
「そんな梨乃ちゃんに海での遊びの定番というものを教えてあげましょう」
ドヤ顔をしながら胸を張る日葵。ビキニだけでは心もとないと言わんばかりにぽよんと揺れた。揺れたのである。どこがとは言わないけど!
そうしてどこから出てきたのか、日葵が手に取ったのはおっぱいのように大きなスイカだった。……あれ、今表現おかしくなかったか? まあいいか。
「海といえば、やっぱりスイカ割りが定番だよね!」
「言うと思ったし!」
スイカを持ってニッコリする日葵に、羽彩は鋭くツッコミを入れた。羽彩の手が二つのスイカに当たってぷるるんと激しく揺れる。あれ、今表現が……まあいいか。
「美味しそうだね晃生くん♪」
「……何がだ?」
なぜかエリカが耳元で囁いてくる。言っている意味がわからず、俺は視線を逸らした。
「まったく、ひまりんってば。どんだけスイカ割りが好きなんだよー」
「え、普通のことでしょ? みんな海に来たら絶対にスイカ割りをするはずよ」
「そ、そうなの日葵ちゃん? だったら絶対にしないと海に来た意味がないよね」
「りのちん騙されんな。絶対って言うほどじゃないから」
「何を言っているのよ羽彩ちゃん。スイカ割りは由緒正しい遊びなのよ。いいえ、これは遊びなんて生ぬるいことを言っていられないわ。むしろ競技ね」
「それは大げさじゃね?」
「そんなことないわ。スイカ割りはれっきとした競技よ。日本スイカ割り推進協会が認定版としてルールを提示しているんだから」
「スイカ割り推進協会……? え、マジ? そんなんがあるの? ちゃんとしたルールがあるのも初耳なんですけど」
「あたしも知らなかったですよ。日葵ちゃんは物知りだね」
羽彩と日葵と梨乃はきゃいきゃいと盛り上がっているようだ。同級生三人組だもんな。あのノリになると俺はちょっと入りづらい。
「そういう時は私が一緒にいてあげるよ♪」
「……何の話だ?」
エリカが俺に寄り添ってくる。考えが読まれた気がしてちょっと恥ずかしい。
あと二つのスイカを当ててくれてありがとうございます! 触る以上のことを散々やっているはずなのに、海と水着というシチュエーションになるとまた違った気持ちを抱くらしい。また一つ、人生の勉強になった。
「それなら羽彩ちゃんはスイカ割り以外にどんな遊びがあるか知っているの?」
「えー? うーん……砂山崩しとか」
「砂山崩しってなんですか?」
「えっとね、砂山を作ってそのてっぺんに棒を刺してね。順番に砂を削っていくのね。で、棒を倒した人の負けってルール」
「私も小さい頃にやったわ。案外面白いわよね」
「アタシも小さい頃にしかやったことないけどねー。でも白熱した覚えはあるかな」
「あたしはしたことないです。簡単そうですし、それならあたしにもできそうですね」
「じゃあ砂山崩しもやりましょう。スイカ割りの後でね」
「ひまりん、スイカ割りは譲らないのな」
それにしても女子が戯れている光景って良いよなぁ。水着という日常生活であれば無防備な姿で、いつも通りおしゃべりに花を咲かせている。
あ、また揺れた。しかもシンクロしたみたいに三人同時に……。学校でもあんな風におしゃべりしている時に揺れているのだろうか。こんなの目にしたら健全な男子なら妄想せずにはいられなくなるだろうが。
「妄想で済ませる気なんてないくせにね♪」
「……」
エリカは楽し気に笑っていた。こうまで頭の中を読まれると彼女のからかいから逃れられない。
「あははっ。そんな目で見てもダーメ♪ 表情と態度に出ていてわかりやすいんだもん。晃生くんは可愛いなぁ♡」
「そんな風に調子に乗ってからかってくるんなら、嫌って言われても可愛がりまくってやるぞ?」
「うん……。私、絶対に嫌がらないから。私がおかしくなるまでたくさん可愛がってほしいな……♡」
……欲望が抑えきれなくなるからそういう顔するなよな。
さすがにこんな大衆の面前でスッキリするわけにもいかない。エリカもそれがわかっているのか「後でね♡」と俺だけに聞こえる声で誘惑する。
エリカは俺から身を離すと、三人娘に声をかける。
「はいはいはーい。私は砂のお城を作ってみたいな。シュノーケリングやウインドサーフィンはしたことがあるんだけど、砂遊びってやったことがないんだよ」
「シュノ……? サーフィン? なんかそっちの方が面白そうなんですけど」
羽彩は頭に疑問符を浮かべながらも、エリカが口にした遊びに興味を惹かれていた。
「砂のお城ですか……。任せてください。砂のお城作りは得意中の得意です!」
梨乃の顔つきが変わる。水着になってから自信なさげだったのが嘘のように、堂々と胸を張った。ぽよよん。
「せっかくだから全部やりましょうよ。大丈夫、それだけの時間は充分あるわ。そういうわけで、まずはスイカ割りね♪」
日葵が話をまとめる。みんなは笑いながら声を合わせて応じた。
遊ぶのはいいんだけどさ……、浜辺での遊びしか提案されないってどういうこと? 誰か一人くらい海に入りたい奴はいないのかよっ。
エリカに誘惑されてたぎってしまったこの身体を、どうやって冷ませばいいのやら……。俺は恨みがましい目で、スイカ割りをしようとはしゃいでいる女たちの尻を見つめるばかりであった。