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69.ピンクの仕業

 玄関を開けると、ピンクと金色が目に飛び込んできた。


「昨夜はお楽しみでしたね」

「? いきなり何言ってんのひまりん?」


 日葵は俺と顔を合わせて開口一番にとんでもないことを言いやがった。隣の羽彩は首をかしげるばかりである。


「なんのことだ?」


 一応すっとぼけてみる。日葵はくすくす笑いながら家の中に入ってきた。


「まあいいわ。梨乃ちゃんに聞けばわかることだもの」

「オイ。やっぱり枕の下にアレを仕込んだのはお前の仕業だったのか」


 日葵は意味ありげな笑顔で俺をスルーする。羽彩だけがわけもわからずに不思議そうな顔をしていた。どっちが優等生とギャルかわからなくなる反応だなオイ。


「あ、日葵ちゃん……」

「お邪魔しているわ梨乃ちゃん。あれ……本当にお邪魔だった?」


 いろいろと身だしなみに時間がかかっていた梨乃が顔を出して、日葵と顔を合わせる。

 シャワーで洗い流したはずなのだが、日葵は何か気づいた様子だった。視覚的にも嗅覚的にも問題ないと思うのだが、こいつは何で判断しているんだ?


「えっとね、日葵ちゃん……。少し言いづらいことなんだけど……」

「……ゆっくりでいいわ。梨乃ちゃんの口から話を聞きたいもの」


 日葵は梨乃に優しく笑いかける。すべてがわかっていたかのような、そんな笑みだった。



  ◇ ◇ ◇



 リビングのテーブル。全員が席に着いたのを確認してから、俺は梨乃と深い関係になったことを日葵と羽彩に告げた。


「え……黒羽さんって晃生のことが好きだったの?」


 口をあんぐりと空ける羽彩。驚いている金髪ギャルとは対照的に、日葵は優雅に出されたお茶に口をつける。


「私は知っていたわ。だって親友だもの」

「はあっ!? 何余裕ぶってんの! それって親友に出し抜かれたってことじゃん!」

「別に出し抜かれたつもりなんてないわ。むしろ背中を押したつもりだったくらいよ」

「はあっ!?」


 日葵の言葉に羽彩は困惑するばかりだ。俺も彼女の真意を測りかねてちょっと混乱しそう。


「私ね、梨乃ちゃんがやる前から諦めてしまうのがずっと嫌だったの。だから今回は強引にでも事が起こるように行動させてもらったわ」

「ひ、日葵ちゃん……」


 日葵と梨乃が見つめ合う。親友として、なんとかしてあげたいという思いがずっとあったのだろう。これが女の友情か。

 だからって、彼氏未満の男を差し出すのはどうかとも思うが……。いや、何も言うまい。ここはエロ漫画の世界だ。


「今回のことはチャンスだと思ったわ。結果はどうあれ、梨乃ちゃんは自分から気持ちを伝えずにはいられない状況だったはずよ。もし梨乃ちゃんから行かなくても、晃生くんから何らかのアクションがあったはずだわ」

「それがなんでゴムになるんだよ……」

「それなら言葉は必要ないもの。梨乃ちゃんに見せるだけでも結果は同じよ」


 枕の下にあったゴムは、俺ではなく梨乃へのメッセージだったらしい。性的なものを目にすれば、どうしたって意識せずにはいられない。気持ちを伝えるための起爆剤になるはずと踏んだようだ。

 日葵のこの様子だと、梨乃の行動を後押しするように以前から何か言い含めていたのだろうな。

 そこまでして梨乃を俺にくっつけたかった理由はなんだ? いくら親友だからって、自分の好きな相手を差し出すような真似は普通しないと思うのだが。

 俺の疑問は、代わりに羽彩が問い詰めてくれた。


「ひまりん何考えてんのっ!? 親友が大切だってのはわかるけど、時と場合と相手にもよるでしょうがっ!!」


 羽彩のもっともな反論に、それでも日葵は涼しい顔をしていた。


「羽彩ちゃんも覚悟をしていなかったわけではないでしょ? 晃生くんが私たち三人で満足するはずがないもの。それならいきなり知らない女の人を連れて来られるよりも、私たちが知っている娘が良いとは思わない?」

「うっ……そ、それは……」


 日葵の言い分に、羽彩は口ごもってしまう。俺も目を逸らした。


「それにエリカさんはともかく、私と羽彩ちゃんで晃生くんの相手をするのは大変だと思わない? いつもあんなに激しいのに……」

「まあ……晃生って体力お化けだしね……」


 羽彩は大人しくなり、日葵と顔を合わせて頷きあった。どうやら話はついたようだ。


「あの、あたしも氷室さんたちのお仲間に入れてもらっても、いいですか?」


 梨乃は恐る恐る羽彩に尋ねる。日葵が背中を押した以上、反対意見があるのは彼女だけだからな。


「別に……。それはアタシが決めることじゃないし。晃生がいいって言ってんならそれでいいんでしょ」

「あ、ありがとうございますっ」


 梨乃は羽彩に頭を下げる。思い切りが良すぎたのか、テーブルに額をぶつけてしまっていた。


「い~~っ!!」

「おい、大丈夫かよ梨乃?」

「黒羽さん大丈夫!?」


 痛そうに呻く梨乃。俺と羽彩の心配の声が重なる。日葵は素早く冷やせるものを出そうと動いていた。

 梨乃の処置を日葵に任せて、俺は羽彩に話しかける。


「悪いな羽彩。勝手に梨乃まで俺の女にしちまった」

「それを今更言われてもねー。まあ、晃生がそういう男だってよ~くわかったから」

「言い訳のしようもない」


 羽彩はぷっと噴き出す。だが、すぐに寂しそうな顔をした。


「ただ、たまにはアタシと二人きりになる時間を作ってくれたら、嬉しいなぁって……」


 そこまで言って、羽彩は首を振った。


「ごめん、今のなし。なんかアタシばっかり重たい女みたい……」

「そんなことねえよ。日葵とエリカは割と自分の意見を俺に押しつけたりもするぞ。梨乃だってけっこうしたいことは言ってくるし」

「え、黒羽さんも?」

「ああ。昨晩あれだけしたってのに、今朝もけっこうノリノリでな……」

「ちょっと待った」


 羽彩に手で制される。


「えっと……。昨晩た、たくさんして……今日も朝からヤってたってこと?」

「そう言ってるだろ」

「晃生が?」

「俺以外の男がいたら怖いだろ」

「黒羽さん一人に?」

「そりゃあこの家で二人きりだったからな」

「……」


 羽彩の視線が梨乃へと向く。あっちはあっちで親友同士盛り上がっているようだ。

 羽彩は息を吐いて、大きく吸い込んだ。それから天井を見上げる。


「黒羽さんも体力お化けだったーーっ!!」


 金髪ギャルの大声が家中に響き渡った。


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