ついカッとなってヤッてしまった……。この気持ちがわかる日がくるだなんて思ってもなかったよ。
「んっ……。晃生くんの、気持ち良かったぁー」
「そ、それは何よりだ……」
俺は青髪の美女と裸になってベッドの上で休憩していた。つまりその……お恥ずかしながら、事後なんですよね。
これは不可抗力というかなんというか。とにかく説明させてほしい。
白鳥の家で勉強会をした帰り道。郷田晃生の人格が表に出ようとしていたのか、溢れんばかりの性欲が俺を支配した。
このままではその辺の女を捕まえてワンナイトしてしまうかもしれない。それほどに抗いがたい欲望だった。
そうならないように急いでアパートに帰ったのだが、そんな俺を待ち構えていたのは青髪の美女だった。
彼女の名前は
原作でその名前に憶えがなかったが、彼女の容姿には見覚えがあった。
セミロングの青髪に、垂れ目でおっとりとした印象の美貌。大人の色気を纏った巨乳は一見の価値がある。
エリカは原作で郷田晃生に食べられた女の一人である。回想シーンでしか登場していなかったが、メインヒロイン級の容姿で地味に人気があったのだ。
つまり本来彼女はモブキャラなのだ。とは言ってもこれは現実だ。原作でモブだからと言って、その人の人生がなくなっているわけじゃない。
実際にエリカとワンナイトした事実を、郷田晃生の記憶が証明している。快楽に溺れたからこそ、彼女は再び抱かれようと郷田晃生の元にやって来たのだ。
「自分を止められなかった……。女性にひどいことしないって決めていたつもりなのになぁ……」
エリカに彼氏はいない。俺が転生する前からの関係ではあったし、今回だってわざわざ食べられに来たのは彼女自身だ。
別に寝取ったわけではない。互いに了承しているなら、肉体関係を責められる謂れはないだろう。
「……」
それでも、最初に決めた自分の心を裏切ったことに変わりはない。いくら抑えられないほどの欲望に支配されていたとはいえ、どうにかならなかったのかと自分を責めてしまう。
「あれ、晃生くんは気持ち良くなかった?」
甘えるかのように、柔らかい肢体が俺の身体に絡みついてくる。
熱烈な抱擁。なのにエリカはおっとりとした表情を崩さなかった。
「いや、そんなことは」
「だよね。あんなに気持ち良さそうな顔して……晃生くん可愛かったなぁ♪」
年上のお姉さんにいじられてとてつもない羞恥心が込み上げてくる。いや、前世を考えれば、精神的には俺の方が少しだけ年上なんですけどね。
「じゃあ悩み事かな? それならエリカお姉ちゃんが聞いてあげる」
顔のラインを手のひらでなぞられる。なんだろうこのゾクゾクする感じは? ちょっと癖になりそうだ。
エリカの熱い吐息が顔に当たる。何か言わないと。そういう気持ちが強くなって自然と口が開いた。
「その……俺は自分を変えようとしていて。女性を雑に扱わないって決めていたのに、こうやってまた欲望をぶつけてしまったというか……。なんて言えばいいのかわからないけど、こんなことしちゃダメだと思ってて。エリカがすごく良かったからこそ後悔しているんだ」
ぽつぽつと、今の気持ちを正直に話し始めた。
上手くまとめられていない話なのに、エリカは黙って聞いてくれた。俺が話し終わると、よしよしと頭を撫でてくれる。
「そっか。晃生くんは優しくなろうとしているんだね」
エリカに抱きしめられる。彼女の豊満な胸に顔を埋める格好になった。
大きくて柔らかい膨らみに包まれながら目をつむる。安心感を覚えていると、ゆっくりと優しい声が降ってきた。
「人間はそう簡単じゃないよ。理屈だけで動く生き物じゃないからね。いきなり感情を全部切り離すなんて、できっこないんだから」
「そうかな」
「そうだよ。例えば私を見てごらん。本当は晃生くんみたいな悪そうな人に関わらない方がいいってわかっているのに、一夜の過ちを忘れられなくてここに来ちゃったの」
エリカの声色は悪戯っ子のようでありながら、優しさに満ち溢れていた。そんな彼女に身を委ねていく。
「それは悪い子だな」
「そう、ダメだとわかっていても悪い子になっちゃうものなのよ。でも、ずっと悪いことをするわけじゃない。たぶん晃生くんも同じよ」
段々とまどろみに包まれていく。倦怠感もあったが、エリカの言葉が俺の心を解きほぐしてくれるようだった。
「少なくとも私は今日晃生くんに会いに来て良かったと思っているよ。他人を傷つけないようにする気持ちは立派だけれど、大事なのはその相手がどう感じているかじゃないかな?」
額に唇を押し当てられる。それは母親が子供にするような温かみのあるキスに感じた。
「自分勝手に後悔なんかしちゃダメだよ。一人でする後悔って、けっこう的外れのことが多いからね。ちゃんと周りを見て、みんながどう思っているのか考えてあげて。きっと、それが優しくなるってことだから」
「うん……わかった」
温もりに包まれる。心も体も楽になって、気持ち良く眠れる気がした。
「……それを私に気づかせてくれたのは晃生くんなんだけどね。ふふっ、大人っぽい人かと思っていたけれど、やっぱり年下なのね」
いつの間にか下腹部の熱は引いていた。代わりに心地の良いぬくもりが全身に巡っていく。
「ありがとう晃生くん。今夜のあなたを見て、私はいつまでも甘えてられないとわかったわ。それよりももっと甘えてほしい……。ふふっ、何言っちゃってるのかな? ……おやすみなさい」
俺の意識は深いところへと落ちていった。そこは温かくて甘い、とても気持ちの良いところだった。