私のクラスメイトに、郷田晃生くんという男の子がいる。
外見は髪を真っ赤に染めていて、長身で筋肉質の体躯。それだけでも威圧感たっぷりなのに、高校生とは思えないほど強面で、みんなが彼を恐れていた。
恐れられているのは彼の外見だけが原因じゃない。それ以上の悪いうわさが、郷田晃生という男の子のイメージを固めてしまっていた。
曰く、他校の不良集団を一人で壊滅させた。曰く、夜の街に繰り出しては女を食いまくっている。曰く、闇の組織で犯罪に手を染めているなどなど……。嘘か本当かわからないようなうわさが、郷田晃生という一人の男子像を作っていた。
「もしうわさが本当なら、今頃私は……」
この綺麗な身体は汚されていただろう。あのたくましい腕に押さえつけられては、きっと抵抗できなかったはずだから。
夜になると思い出してしまう。ベッドに横になれば、より一層あの時の光景が蘇ってくる。
私の裸体を前にしても、まったく動揺しなかった郷田くん。でもしっかり興奮してくれていて、自分でも驚くほどに女の喜びを感じていた。
「男の子のあれが、あんなことになっても……郷田くんは理性を保っていたわ」
少なくとも、みんながうわさするような野獣ではない。厚めの生地のズボンを突き破りそうなほど興奮していたにもかかわらず……それでもなお、私を励ましてくれるだけの優しさを持っていた。
「純平くんとは真逆ね」
野坂純平くん。私の幼馴染の男の子だ。
幼い頃から一緒に遊んでいた男の子。幼稚園から現在に至るまでずっと一緒で、必然的に一番接することの多い男子が彼だった。
血のつながらない弟。純平くんの印象を問われれば、そう答えることが多かった。
だからこそ、高校に入学してすぐに純平くんに告白された時はものすごく驚かされた。
それと同時に、納得もしていた。
いつかは誰かと付き合うのだろうと漠然と考えていた。最初が純平くんなら、まあいいかと思えた。弟みたいに一緒の時間を過ごしてきた幼馴染が、悪い人ではないと知っているつもりだったから。
「男の子の中で一番優しいと思っていたのに……。純平くんにあんなこと言われるなんて予想していなかったわ」
周りは初めてを済ませた人がそれなりにいた。私も彼氏がいるからと、楽観的に考えていたところがある。
なのに、いざ初体験を迎えようとして、純平くんから「おっぱい大きい女の子が苦手」と言われて頭が真っ白になった。
その発言を肯定するかのように、彼の男の子の象徴がまったく反応していなかった。
この事実は私の女としての魅力を否定されたようで、プライドをひどく傷つけられた。純平くんはいつも情欲に満ちた目で私の身体を見ていたのに、あれはなんだったのかと問い質したかった。
「冷静になった今ならわかるけれど……」
調べてみると、男の子の中には初体験で緊張してフニャフニャになることがあるらしい。
わかっていれば動揺せずにいられる。けれど、あの時の純平くんは焦ったのだろう。そして、私に向かって心にもないことを口にした。
「わかっていても、傷つくことに変わりはないわ」
胸を押さえれば、柔らかい感触が返ってくる。我ながらよく成長したものだと思う。
男子の目を惹き、女子から憧れの眼差しを向けられる身体。私は自分のスタイルに誇りを持っている。自分が美人だと自覚している。
自分が可愛いと自覚しているからこそ、優等生であろうと努力した。
そうすればいらないやっかみを抱かれずに済む。傷つけられないで済む。自分が可愛いからこそ自身を守るのに一生懸命で、いざ傷つけられると必要以上の傷を負ってしまう。
「もし、郷田くんが私の彼氏だったらどうなっていたのかな?」
いけない妄想だ。彼氏がいるのに別の男を思うなんていけないことに決まっている。
それでも考えずにはいられなかった。乱暴者だと思っていたのに、覚悟して彼を誘ったのに、優しく諭されてしまった。
「郷田くん、あんなに顔を真っ赤にしちゃって……可愛かったなぁ♪」
「可愛い」と言われ慣れていたけれど、郷田くんにそう言われた時は新鮮な気持ちになれた。心の奥がじゅんと熱くなるような感覚があったほどに。
イメージと違いすぎて、郷田くんに興味を引かれてしまう。自分をさらけ出したところを見せたから、彼にも同じところまで見せてほしくなった。
知りたい、知りたい、もっと郷田くんのことを知りたい。その気持ちが溢れてきて、抗うことができなかった。
「電話……してみようかな」
学校で一番の危険人物。そう認識されている彼の連絡先を聞くのを誰もが反対した。
それでも関係なかった。自分の気持ちには逆らえないのだから。
「氷室さんがいるし、早く行動した方がいいわね」
氷室さんが郷田くんに向ける目。その意味に気づけない人はいないだろう。いたとすれば、とんでもなく鈍感だ。
「だから、純平くんに……さよならしなきゃね」
初めて芽生えた気持ちを大切にしたい。きっと、純平くんだってわかってくれる。だって彼は私の幼馴染なのだから。
気持ちを整理しようと、ベッドの上で自分自身に触れる。熱いものを発散して、冷静になった頭で考えた結果、私の行動は変わらなかった。
「もしもし純平くん? 今、時間もらえるかな」
自分の気持ちに嘘をつかないように。そのために、私は純平くんに電話したのだった。