あの後も琴音ちゃんと映画館でアクション映画を観に行ったり、ショッピングモールの洋服屋めぐりで着せ替えショーを楽しんだり、ゲーセンでツーショットプリクラを撮ったりと満喫しまくった。
「俺、なんか普通に女の子とデートしてる!?」
「そうですよー。祐二先輩は今日あたしとデートしているんですよー」
琴音ちゃんが楽しそうに当たり前の事実を口にする。
はっ、そうだった。琴音ちゃんは俺の彼女で、彼女とデートするのは当たり前のことだった。
頭じゃ理解していたつもりなのに、受験勉強で認識までなまったのか琴音ちゃんがひどく新鮮に見える。うん、おかしなこと言ってる自覚はあるんだよ。自覚は。
俺と琴音ちゃんの付き合いは一年にも満たない。でも、恋人になってから半年以上の付き合いになる。
なのに琴音ちゃんが俺の彼女だってのが、未だに夢みたいに考えてしまうことがある。こんな可愛い娘、ラブコメじゃなかったら絶対に俺になびかないだろってくらいには信じがたいことなのだ。あれ、つまりここはラブコメの世界なのか?
受験勉強のせいで琴音ちゃんと今日みたいな時間をあまり作れなかったからな。俺がそう考えるのも仕方がないだろう。
「もう真っ暗ですね」
遊び尽くして外に出れば、もうすっかり日が暮れて、星が綺麗な夜になっていた。
楽しいことをしていると時間が過ぎるのが早い。そんな当たり前のことを、久しぶりに実感した。
「今日は楽しかったです祐二先輩。じゃあ……帰りましょうか」
琴音ちゃんが俺の一歩前を行く。
そんな彼女の手を、無意識に掴んでいた。
「祐二先輩?」
琴音ちゃんの足が止まる。亜麻色のツインテールを揺らして振り返った彼女が、不思議そうに小首をかしげていた。
「その、だな……。今日、俺の家に親がいないんだよね」
「はあ」
心臓がバクバク鳴っている。太鼓でも叩いてるみたいな衝撃が俺の体を揺らしていた。それが俺の指先を震わせる。
こういう時、どんな顔で誘えばいいかわからない。彼女いるのが当然ってレベルのリア充はどうやっているんだ? ぜひご教授願いたい!
「良かったら……今から俺ん家に来ない?」
やばい。声が裏返った。脇から変な汗が出てるしっ。
俺の全身全霊での「家来る?」発言に、琴音ちゃんは大きな猫目をパチクリさせて応えた。
「……」
いや、返事になってなかったわ。フリーズしたみたいに彼女の口が動かない。
親が不在の彼氏の家。そこに飛び込むことがどういう意味を伴っているのか、琴音ちゃんは正しく理解しているのだろう。
だからこそすぐに返答できない。この後の展開が予想できるからこそ、軽はずみな答えが出せないのだろう。
もちろん俺だって軽い気持ちで言ったわけじゃない。
受験が終わって、勉強と試験から解放された。もっと開放感のあることをしたいってのは、ずっと我慢してきたからこその欲望だろう。それを発散せずして真に受験が終わったとは言えないのではないだろうか?
……まあそれは半分くらい冗談として。欲望を解放したいとか、半分くらいしか思ってない。
受験が終わった。卒業もした。進学も決まった。
それは良いことで、俺ががんばってきたことでもあって、目標を達成したと胸を張れることだ。
でも、同時に琴音ちゃんと離れてしまうことも意味していた。
高校の先輩後輩という間柄。そこに恋人という関係があるとしても、一つの繋がりを失ってしまうことに変わりはない。
だからこそもっとより深い繋がりが欲しいと思った。
わかりやすいほど深い関係を。彼氏彼女という実感がさらに得られる関係を。俺の大学生活が始まってしまう前に、これからも琴音ちゃんといっしょにいられるという自信が欲しかった。
「その……祐二、先輩……」
「う、うん……」
緊張している。俺だけじゃなく、琴音ちゃんもだ。
それがわかっていても、互いに声が震えるのを抑えられなかった。
「ふ、不束者ですが……よ、よろしくお願いします!」
「ま、任せろ!」
互いにガチガチに緊張していて、でもそれが俺達らしくもあり、二人で「ぷっ」と噴き出した。
「あははっ。じゃあ家までエスコートしてくださいね」
「ふっ。お任せあれ」
自然に手を繋いだ。琴音ちゃんと二人きりで歩き始める。
心が落ち着くような関係。俺達は二人でいるのがしっくりくる。
だから、学び舎が違ってもこの手はそう簡単に離れたりはしないだろう。琴音ちゃんがいるだけで、そう安心していられるのだった。