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20.ぼくの誕生日と婚約式

 ぼくの誕生日はお茶会で祝われた。

 お茶会にはクラウス殿下とラウレンツ殿とブリギッテ嬢とクリスティーナ嬢の他にも公爵家、侯爵家の貴族たちが集まって参加してくれた。

 お菓子やケーキ、サンドイッチやスコーンが用意されているテーブルから自由に自分の好きなものを取ってきて、会場の端にあるテーブルに数名ずつついて紅茶を入れてもらってお茶をするという比較的自由なお茶会だったが、最初にお義父様とお義母様が挨拶をした。


「今日はアンドレアスの誕生日のお茶会に参加してくださってありがとうございます。アンドレアスも今日で社交界デビューを許される十五歳となりました」

「皆様ご存じとは思いますが、アンドレアスはマルグリットと婚約が決まっております。マルグリットは学園を卒業後、公爵となるための勉強を領地で始めます」

「アンドレアスは公爵となるマルグリットの補佐として末永くマルグリットを支えてくれるでしょう。これから婚約式もありますが、二人の婚約を皆様にお伝えしたく、このお茶会を開きました。どうぞ、アンドレアスとマルグリットを今後ともよろしくお願いします」


 お義父様とお義母様の挨拶に拍手が巻き起こる。

 ぼくとお義姉様の婚約を祝しての拍手に、ぼくは照れながらもお義姉様の手を取った。お義姉様は微笑みながらぼくの手に手を乗せてくれる。

 今日のお茶会のために用意したぼくのフロックコートと、お義姉様のドレスは色味を合わせてあって、ぼくのラペルホールにはエメラルドのラペルピン、お義姉様の胸には金を散らしたラピスラズリのネックレスが下がっている。


 周囲の視線を向けられて優雅に一礼したぼくとお義姉様に、拍手はますます大きくなった。


 お茶自体はぼくとお義姉様はいつものようにクラウス殿下とラウレンツ殿とブリギッテ嬢とクリスティーナ嬢と一緒に過ごした。ケーキとサンドイッチを取ってきて、椅子に座ると、メイドが素早くお茶を入れてくれる。熱い紅茶に牛乳を入れてミルクティーにして飲むと、体が温まる。


「アンドレアスは少し背が伸びたかな? そのフロックコートよく似合っている」

「ありがとうございます、クラウス殿下。お義姉様のドレスと色を合わせてみたのです」

「アンドレアス、『お義姉様』ではなくてマルグリットと呼ぶ約束ではなかった?」

「それは二人きりのときだけではなかったのですか?」

「もう婚約するのだから、『お義姉様』はおかしいわ」


 お義姉様に注意されてぼくは照れながら言い直す。


「マルグリット様」

「婚約すれば『様』もいらなくなるのだけれどね。今はいいわ。アンドレアスに急に呼び捨てにしろと言っても困らせるだけだもの」


 ぼくとお義姉様とのやり取りに、クラウス殿下とブリギッテ嬢がくすくすと笑っていた。


「本当に仲がいいのだな。その前からずっと仲がいいとは思っていたが」

「アンドレアス様の身長もこれから伸びていくでしょう。そしたらますますお似合いになりますわ」


 ぼくはまだ十五歳。身長はやっとヒールのある靴を履いたお義姉様と同じくらいになったが、これからもっともっと身長は伸びる予定なのだ。実の両親が大きなひとではなかったのでクラウス殿下のような長身にはなれないと思うのだが、それなりの身長にはなれるのではないだろうか。


「婚約式が楽しみですね。婚約式のときには王家専属の記録係が記録の魔法を使うのでしょう?」

「クリスティーナ嬢の仕事はなくていいのですね」

「わたくしは参列者としてお二人の晴れ姿を堪能させていただきますわ」


 クリスティーナ嬢とラウレンツ殿の言葉に、ぼくとお義姉様は顔を見合わせて微笑む。

 リアの事件のときにはクリスティーナ嬢に記録係になってもらっていたが、ぼくとお義姉様の婚約式には王家専属の記録係がしっかりとぼくたちの婚約を記録してくれる。

 その日がぼくは楽しみでならなかった。


 ぼくの誕生日のお茶会の一週間後に、ぼくとお義姉様の婚約式は行われた。

 お義父様とお義母様とお義姉様とぼくで馬車に乗って王宮まで行って、ぼくとお義姉様は国王陛下の御前で誓いを立てることになった。


「マルグリット・ベルツ、そなたはアンドレアス・ベルツが成人した暁には結婚し、共に領地を治めることを誓うか?」

「はい、誓います」

「アンドレアス・ベルツ、そなたは成人の暁にはマルグリット・ベルツと結婚し、公爵となったマルグリット・ベルツを支え、共に領地を治めることを誓うか?」

「はい、誓います」


 お義姉様とぼくが誓いの言葉を述べると、婚約誓約書に二人でサインをする。

 これでぼくとお義姉様の婚約は成立した。


 婚約式の後のお茶会でぼくのデビュタントが華々しく行われた。


 王妃殿下がぼくを国王陛下に紹介する。


「国王陛下、今年社交界デビューするアンドレアス・ベルツです」

「アンドレアス・ベルツです。よろしくお願いいたします」


 片膝を床について礼をすると、国王陛下が頷き、ぼくは社交界の一員と認められた。

 お茶会が始まると、クラウス殿下がシャルロッテ殿下を連れてやってきた。今年六歳になったシャルロッテ殿下は、今日がお茶会のデビューの日だったようだ。


「マルグリットおねえさま、アンドレアスおにいさま、ごこんやくおめでとうございます」

「ありがとうございます、シャルロッテ殿下」

「お祝いに来てくださったのですね。シャルロッテ殿下もお茶会のデビューおめでとうございます」


 ぼくとお義姉様が声をかけると、シャルロッテ殿下は白い頬を紅潮させて緑の目を煌めかせる。


「ほんとうは、アンドレアスおにいさまのおたんじょうびにもいきたかったの。でも、おちゃかいのデビューはアンドレアスおにいさまとマルグリットおねえさまのこんやくしきにしようってきめていたから、きょうまでがまんしたのよ」

「ぼくの誕生日にも来てくださろうとしていたのですか」

「きょうは、アンドレアスおにいさまのしゃこうかいデビューのひでもあるでしょう? わたくしもそのひにあわせたかったの」


 敬語が崩れてしまったが、それを咎めるものはどこにもいない。

 微笑ましくシャルロッテ殿下を見つめていると、シャルロッテ殿下がもじもじとお義姉様にお願いする。


「こんやくするじょせいがもっているブーケをもらったら、しあわせなけっこんができるってきいているの。マルグリットおねえさま、わたくしにブーケをくださらない?」


 今日のために用意された白を基調としたブーケをお義姉様は持っていた。そのブーケは結婚を控えた誰かに渡されるはずだったが、こんなに可愛いおねだりをされたらお義姉様も心が動いたようだった。


「シャルロッテ殿下には少し早いかもしれませんので、この一輪だけを」

「くださるの?」

「残りはブリギッテ嬢に差し上げると約束しているので、一輪で申し訳ありません」

「いちりんでもうれしいわ! ありがとう、マルグリットおねえさま!」


 ブーケから一輪だけ白薔薇を抜いてシャルロッテ殿下に手渡すと、シャルロッテ殿下は飛び跳ねそうになって喜んでいる。飛び跳ねて喜ぶのはさすがにお行儀が悪いと分かっているようだが、体が飛び跳ねそうになっているのは、まだ六歳なので仕方がない。


「シャルロッテ、マルグリットとアンドレアスに挨拶はできたか?」

「はい、おにいさま!」


 クラウス殿下がマルグリット嬢を伴ってシャルロッテ殿下に話しかけると、シャルロッテ殿下は持っていた白薔薇を誇らしげにクラウス殿下に見せた。


「これ、マルグリットおねえさまからいただいたの。わたくしもしあわせなけっこんができるわ」

「あら、シャルロッテ殿下はもう結婚なさるおつもりですか?」

「きょうのこんやくしきがとてもすてきだったもの。わたくしも、マルグリットおねえさまのようにきれいなドレスをきて、こんやくしきをあげて、けっこんしたいわ」


 夢見るように言うシャルロッテ殿下に、クラウス殿下の表情が苦々しくなっている。


「あまり急いで大人にならないでくれ、シャルロッテ。シャルロッテはわたしの可愛い妹なのだから」

「おにいさまはまたわたくしをこどもあつかいする! わたくしはもうおちゃかいにデビューするねんれいになったのよ!」


 気が強く言い返すシャルロッテ殿下にクラウス殿下も困っている様子だった。

 この日、ぼくとお義姉様は婚約した。


「マルグリット様、ぼくがマルグリット様を幸せにします」

「アンドレアス、わたくしも負けてはいないわよ。アンドレアスのことを幸せにしてみせるわ」


 ぼくとの婚約は、煩わしい他家からの婚約を断るための口実だったのかもしれないし、お義姉様にとっては政略結婚の一部かもしれない。

 それでもお義姉様と婚約できてぼくは本当に幸せだった。


 お義姉様、お慕いしています。

 きっとお義姉様に慕われる男性になります。


 十五歳のぼくの未来は明るい。


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