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16.リアに下された沙汰

 記録の魔法がかかった魔法石には、大量のことが記録されていた。

 始まりはここと同じ中庭でのリアの嘘の告白だ。

 告白の様子が立体映像で映し出されると、押さえ付けられているリアがぐぅっと唸る。


「あんたなんかのルートを選ぶんじゃなかった! そんな告白嘘に決まってるでしょう! 王太子ルートにすればよかったわ!」


 周囲にとっては意味の分からないことを口にしているリアに、クラウス殿下が吐き捨てる。


「嘘の告白をしたのか。最低だな。しかも、わたしを狙っているというのも本当だったのか」


 ぼくの次には狙われていたクラウス殿下は眉間に皴を寄せている。


「彼女が言っている通り、彼女はぼくを呼び出して嘘の告白をしたのですよ」


 嘘の告白と聞いてラウレンツ殿もブリギッテ嬢もクリスティーナ嬢もお義姉様も苦々しい表情になっている。


「平民が公爵家のアンドレアス様に告白した挙句、それが嘘だったなどよく言えるものですね」

「アンドレアス様の言う通り、公爵家の男性にちやほやされたいだけだというのがよく分かります」

「それでアンドレアス様を狙うだなんて罪深い」

「わたくしの義弟になんてことをしてくれているのでしょうね」


 ラウレンツ殿もブリギッテ嬢もクリスティーナ嬢もお義姉様もリアに怒りを覚えているようだ。

 続いては課外授業での立体映像を映し出す。

 シルバーウルフに襲われそうになって、喜んで前に出ようとしているリアの姿が映し出される。


「自分では敵わない魔物の前に喜んで走り出る彼女は正気とは思えません」


 ぼくが言えば、リアが声を上げる。


「あんたを守ってやろうとしたのよ! そんなことしなければよかった!」


 守るという言葉にもクラウス殿下とお義姉様が顔を怪訝そうな顔をしている。


「守も何も、平民の特待生の魔法ではシルバーウルフには敵わなかったであろう」

「やはり頭がおかしいようですね。シルバーウルフからアンドレアスを庇うことができると思っているだなんて」


 クラウス殿とお義姉様の目が哀れなものを見る目になってきている。

 続いて、ぼくはリアが魔法具店で暴れている立体映像を映し出した。

 魅了の魔法具を求めて暴れるリアを立体映像が鮮明に映し出す。


「この通り、彼女はこのブローチを魅了の魔法具だと思い込んで奪っていったのです。店主から話を聞きましたが、魅了の魔法具など売っていないし、あまりに彼女が暴れるので仕方なく何の変哲もない普通のブローチを指差して帰ってもらったと言っていました」

「そんな……! 魅了のアイテムはゲームではあの店で合言葉を言えば買えるはずだったのに!」


 ゲームの攻略を完全に信じ切っているリアに、ぼくはため息をつく。

 クラウス殿下とラウレンツ殿とブリギッテ嬢とクリスティーナ嬢とお義姉様も呆れている様子だ。


「本物ではなかったとはいえ、それを使おうとしたことが事実なら重罪は免れないな」

「無知とは怖いものですね」


 クラウス殿とお義姉様が言うのに、リアは必死に言い訳をする。


「偽物だったんだから、問題ないじゃない! わたしはなにも悪いことはしていないわ!」

「偽物であろうとも、それを本物と信じ、使おうとした時点で罪は発生している」

「そんなことも分からない頭で、罪を犯したのですね。とても正気とは思えないわ」


 自分のしたことを吐いていくリアに、ぼくは最後の立体映像を突きつけた。

 それはリアが学園に発生したケルベロスの怪我を治癒しようとして失敗し、ケルベロスに食われそうになっている映像だった。

 その映像はクラウス殿下もラウレンツ殿もブリギッテ嬢もクリスティーナ嬢もその場に居合わせたはずだった。


「『光の御子』! わたしは『光の御子』なのよ! 魔物はわたしに懐いて学園は平和になるはずだった!」


 責められることは何もしていないとでもいうようなリアに、ぼくは憐れみの目を向けた。


「クラウス殿下、彼女は重罪を犯したかもしれません。ですが、この通り、彼女は正気ではないのです」

「そのようだな。こんなこととても正気の人間のやることとは思えない」

「国王陛下は彼女をどう裁くでしょうね」

「やったことは重罪だが、正気でないのならば責任を取らせるわけにもいかないかもしれない。生涯療養施設に入ってもらうくらいが妥当ではないだろうか」


 リアは正気ではないと判断されて、療養施設に入れられて生涯出られないようになるのが妥当な処分ではないかとクラウス様は言っている。

 ぼくもその処分で構わなかった。


「お義姉様、平民の特待生は学園を去るでしょう。安心して学園に復帰して来てください」

「そのつもりでしたわ。アンドレアス、わたくしのためにこの場を設けてくれたのですね。ありがとうございます」


 立体映像も全て映し終わると、リアは警備の兵士に連れて行かれた。

 今後ぼくやお義姉様がリアを見ることはないだろう。


「さようなら、平民の特待生。あなたがしたことは許されませんが、正気ではなかったのですから仕方がないです。生涯療養施設に入って、自分のしたことを反省……できないでしょうね、その頭では」


 憐れみを込めてリアに声をかけてぼくはクラウス殿下とラウレンツ殿とブリギッテ嬢とクリスティーナ嬢とお義姉様と一緒にサロンに戻った。

 サロンの他の部屋からは生徒が帰り始めていたが、生徒の口からは今日のことが話されていた。


「平民の特待生があのようなことになるとは」

「普段からぶつぶつと奇妙なことを呟いていましたが、正気ではなかったのですね、お気の毒に」

「正気ではない人間を学園はどうして入学を許したのでしょう」


 学園全体にリアの断罪の場面を配信するというぼくの企みは成功していたようだ。

 ユリアン殿のことでお義姉様が傷付いていたことなど、もう話題には上がらない。学園は完全にリアの噂でいっぱいになっていた。


「あの平民の特待生がたぶらかした侯爵令息も、きっとおかしかったのでしょうね」

「あんな方を信じてプロムに誘うくらいですからね」


 断罪の様子をサロンに配信したユリアン殿に関しても、正気ではなかったのだと噂になっている。

 これでお義姉様の名誉も守られた。

 ぼくは安心していた。


 リアはそのまま牢獄に入れられて、国王陛下が沙汰を下したという話が聞こえてきた。

 その後でぼくは国王陛下に国宝の魔法無効化のネックレスを返すために、王宮へ向かっていた。

 お義父様もお義母様もお義姉様も一緒だ。

 王宮では国王陛下はぼくたちベルツ家の一家をサンルームに招いて、お茶会の用意をしていた。国王陛下と王妃殿下とクラウス殿下だけの身内の小さな私的なお茶会だった。

 そこでビロードの箱に入れたネックレスを返すと、国王陛下はぼくに聞いてきた。


「アンドレアスは何ともなかったのか」

「はい。やはり魅了の魔法具などありませんでした。この魔法具はケルベロスの炎から身を守るために役に立ちました。ありがとうございます」

「ケルベロスに炎で攻撃されたとき、アンドレアスが庇ってくれたのです」

「そうか、役に立ったのだったらよかった。アンドレアスも無事で何よりだ」


 微笑んで紅茶を飲む国王陛下に、ぼくは確認する。


「平民の特待生の沙汰はどうなったのですか?」

「あの平民の特待生は辺境の療養所に入れられた。魔法を完全に封じて、今後一生涯出ることは叶わないだろう」

「やはりそうだったのですね」

「やったことは重罪だが、正気ではなかったのだったら、死罪にするまでもないのではないかとクラウスに言われてな」

「明らかにあの平民の特待生のやっていたことはおかしかったですよ」

「わたしも記録を見せてもらったが、その通りだと思う」


 国王陛下もリアの狂気については理解を示している。

 リアは今後一生、魔法を封じられて療養所から出ることなく過ごすのだろう。それがリアにはお似合いの結末に思えた。


「マルグリットは婚約がなくなったので、申し込みが大量に来ているのではないか?」


 国王陛下の問いかけに、お義姉様がため息をつく。


「わたくしはもう結婚など考えたくありません」


 傷は癒えたとはいえ、お義姉様はユリアン殿のような男性に呆れ返っているようだ。


「マルグリットの件はわたしたちも考えております、国王陛下」

「兄上には近いうちにいい報せをお届けできると思っておりますわ」


 お義父様とお義母様の言葉に、ぼくは考えていることがあった。

 お義姉様を絶対に裏切らず、幸せにできる相手。

 それはぼくなのではないだろうか。


 ぼくは公爵家の養子でお義姉様と血は繋がっていない。

 ぼくがお義姉様の婚約者になっても何の問題はないはずだった。

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