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2-2

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 昼休み、購買で買ったメロンパンを手に、俺と悠真は勉強から解放された男子たちが騒ぐ学食で、空いてる席に並んで座った。朝のフェロモン大失敗が何度も頭を過ったが、こうやって悠真と一緒にいられるだけで、不思議と心が落ち着いていく。


「あのさ悠真、朝の騒ぎどう思った?」


 お互い教室で弁当を食べた後に、こうしてデザートのようにパンを食べるくつろいだ環境なら、どんなことでも喋りやすいだろうと考え、話題を振ってみる。

そして俺の作戦がズッコケた理由がちょっとでもわかれば、次に活かせることができるだろう。


 悠真はメロンパンにかじりつきながら、少しだけ小首を傾げた。


「うーん、そうだな。陽太って、本当に元気だなって思ったよ。みんなが騒いでいても、陽太らしさを貫いてるなって」


 そう言ってにっこりほほ笑み、美味しそうにメロンパンを口にする。


(いや、そのみんなが騒いでいるのは、俺のフェロモンのせいなんだけど。その理由に、コイツは気づかねぇのかよ!)


「でもさ、みんなが『いい匂い!』とか騒いでたの、わかっただろ? あれが俺のフェロモンなんだけどさ……」


 鈍い悠真に対して、ちょっと意地悪く聞いてみた。悠真がなにかを感じていたなら、ここでわかるはずだと思ったのに、隣でパンを一口食べてから、さっきとは反対側に首傾げて、


「匂い? うーん、陽太って汗っかきだから、そういう匂いかなって思ってた。俺、フェロモンの匂い自体よくわからないし」


(――汗っかき!? コイツにとって俺のアルファの魅力が、汗扱いだってことなのか!?)


 心の中で絶叫したけど、悠真の穏やかな顔を見てると、とんと怒る気にもなれなかった。


「陽太の匂いって、焼き立てのパンより美味しい匂いがするのかな?」

「俺のフェロモンを、パンの匂いと一緒にすんな!」

「ふふっ、ごめんごめん」


 まったく悪びれた様子を見せず、おかしそうに笑う横顔に話しかける。


「悠真、ベタでも反応するヤツがいるのに、おまえはどうなってんだ?」


 悠真自身に踏み込んだ質問をしてるのがわかるので、声のトーンを極力落として訊ねると、まぶたを伏せて俯いた。


「俺、昔からそういうのに鈍いって言われるよ。家で姉ちゃんがフェロモンの匂いで騒いでいても、『静かに読書してな』って母さんに言われたし。姉ちゃん以外の家族は、フェロモンを感知しない体質みたいでね」


 悠真は一瞬だけ瞳を揺らしたあと、なにごともなかったようにメロンパンを一口かじる。らしくない態度が見え隠れしたものの、告げられた言葉に思いっきり頭を抱えたくなった。


 もしかしてと思ったが、フェロモンを感じない体質だったとは。というかフェロモン以前に、外部の刺激に慣れてねぇだけじゃねぇか?


 呆れ果てた俺の隣でマイペースを貫き、美味しそうにパンを食べる、かわいい悠真とふたりきりの状況に浸るべく、まぁいいかって自分を納得させた。


 昼休みの残り時間、悠真とメロンパンを食いながら、作戦の立て直しを頭の中ではじめたのだった。


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