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朝っぱらから
しかもクラスメイトのクスクス笑いで、恋バレしている事実が嫌というくらいにわかり、頭を抱えたくなる。
昼休みのチャイムが鳴り、誰もかまわれたくなかった俺は、ひとりで弁当を食べた。すると
『食べ終わったら学習指導室に来い』
走り書きなのに、やけに綺麗な文字で書かれた紙片を、ぎゅっと握りつぶしてゴミにした。
学習指導室は、先生が成績の良くない生徒を呼び出して強制的に勉強をさせたり、親を呼んで三者面談をおこなうところで、俺はこれまで一度も立ち入ったことのない場所だった。
一日に何度もフェロモンの誤爆で騒ぎを起こしたことについて、担任から呼び出されるかもと覚悟していたのに、なにもなかったというのは、
「どこまでもできた副委員長様だぜ、まったく……」
食欲が一気になくなったので弁当を片付け、重い足を引きずりながら学習指導室に向かった。1階まで階段で降りて、廊下の奥にある学習指導室のオレンジ色の扉の前に立ち、数回ノックしてから扉を開け放ったら。
「おおっ、やって来た。これが噂のフェロモン爆散野郎か。結構イケメンじゃん!」
こじんまりとした室内に、長机が一つと椅子が四脚あって、埃っぽい空気が漂っている気がする。机の向こう側に
「……なんでC組の
2年C組の
「俺が西野と話し合いするって言ったら、いきなり割り込んできた。ふたりきりにしたくないとかワガママ言ってきて、その……」
「涼と俺はラブラブの関係だからさ、アルファのおまえと一緒でも間違いがあったら嫌だしよぉ」
「いやいや。絶対に間違いなんてありえないから!」
「世の中、絶対なんて言いきれないんだぞ。現に俺と涼が付き合ってるのが、その証拠ってワケなんだぜっ!」
困惑して扉の前に佇む俺に、
「西野、時間を無駄にするな。早く中に入ってくれ」
「ああ、わかった」
静かに扉を閉めて、
「昼休みは永遠じゃない。時間が限られているからな、単刀直入に聞くけど月岡に本気なのか?」
「本気だ。悠真のこと運命の
「アプローチするのはかまわない。だがアルファのフェロモンをまき散らすことで、学校の秩序を乱してどうする。フェロモンのコントロールは、小学生のうちにマスターしているものだろう?」
「言っただろ、俺なりのアプローチだって!」
膝の上に置いてる拳をぎゅっと握りしめて、語気を強めた。
「西野はアルファの中でも、ひと際強いフェロモンを持ってる。それがどれだけ周りに影響を及ぼすのか、考えたことがあるのか?」
「なぁ西野委員長、その強いフェロモンって、どんな匂いなんだ? 出してみろよ!」
「ここで出すわけねぇだろ!」
「西野、コイツの言うことを聞かなくていい。ここで出したらアルファの俺がたぎって喧嘩腰になる上に、乱闘になって学習指導室が終わる」
至極冷静に
「だから出さねぇって!」
慌てて否定したけど、
「昔、アルファに狙われてさ。フェロモン嗅がされて、うぜぇアルファがいっぱい絡んできたんだよ。でも殴り飛ばして、みんなぶっ飛ばしてやったぜ!」
カラカラ豪快に笑いながら、親指を立てた。
(確か
呆気にとられる俺を尻目に、オメガの
「だから西野委員長、フェロモン爆散しても落とせないのなら、腕っ節をもっと強くしなきゃダメだぞ!」
なぁんて自慢げに、両腕の力こぶを見せつけられたのだが。
「俺は喧嘩じゃなくて、悠真と恋がしたいんだ……」