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2-4

***

 フェロモンが校庭に爆散したせいで盛大にズッコケけたけど、考えを改めるキッカケになった。言わば失敗は成功のもとって、ポジティブに頭を切り替える。


 悠真がフェロモンに気づかねぇのなら、カッコイイ俺をド派手にアピールして、心をガッチリ掴む。そのタイミングでフェロモンをドカンとぶち込めば、悠真の鈍感なハートも俺色に染まるハズ。相乗効果は二倍になること間違いなし!


 校庭から教室に戻る道すがら、内心ドキドキしながらさりげなく訊ねる。


「なあ悠真、放課後暇か?」

「今日は図書当番もないし家に帰るだけだから、なにもないよ」

「だったら、バスケ部の練習見に来ねぇ? 俺のスーパープレーをバッチリ見せてやるからさ!」


 俺の誘いに、悠真は眩しい笑顔を見せた。


「うん、暇だからいいよ。陽太がバスケで活躍するところが見てみたい」


 二つ返事でOKした悠真を見てるだけで、自然と闘志がわいてくる。


(よっしゃ! 接近戦第二弾だ! カッコよく決めたところにフェロモン全開で、悠真をロックオンしてやる!)





 放課後になり悠真と一緒に体育館に着くと、バスケ部のヤツらが既にアップ中で、男子校らしい騒がしさと「パスよこせ!」「おまえ下手くそ、なにやってんだよ!」って叫び声が、壁に反響して館内に響きまくった。


 俺は急いでユニフォームに着替えてコートに飛び出し、悠真が観客席の端に座るのをしっかり確認する。悠真の座った位置から、俺が格好良く見える場所を計算するために、視線を右往左往させた。


 ド派手なシュートをバシッと決めて、悠真をときめかせる作戦開始だ。


(よし、悠真見てろよ。これで落ちないわけねぇ!)


 いつもやってる、レギュラーVS二軍の練習試合。二軍と言っても、すぐにレギュラーになれるような実力のあるメンバーばかりなので、当然気が抜けない。


 俺のポジション、シューティングガードはシュートをバシバシ決める花形だ。得意なスリーポイントシュートを悠真に見せるのもアリだけど、一瞬で決まるシュートを見せても、あっけないものにはときめかないだろう。


 ここはドライブ、つまりドリブルで格好よくディフェンスを何人も抜き去り、シュートをしたほうが印象が残るに決まってる。 悠真の「陽太すごい!」って声が、今から聞こえてくるぜ!


 試合開始のホイッスルが鳴ってすぐに、チームメイトからパスされたボールをドリブルし、フェイントを駆使して、敵陣を華麗に抜き去った。空中で体を360度回転させながら、ジャンプシュートをぶちかます。


「陽太先輩すげぇ!」


 ベンチで見ていた後輩たちが、一斉に盛りあがったのがわかった。


 ボールがネットをくぐる聞き慣れた音を耳にした瞬間、利き腕を高くあげてガッツポーズを決めつつ、悠真にウインクしてみせたら、同じポーズをとって喜ぶ姿が目に留まる。


「悠真、やったぞ!」


 想像以上にシュートがうまくいった高揚感をそのままに、フェロモンをここぞとばかりに溢れ出した刹那。


 バキッ! ガシャーン! ドンッ!


 なぜか俺の背後で、不穏ふおんな音がした。恐るおそる振り返ると――。


「うわっ、陽太先輩の匂いヤバい!」


 真っ赤な顔したオメガの後輩が、持っていたボールを投げそこねたらしく、近くにいるメンバーの顔面にボールが直撃。痛そうにうずくまる姿があって……。


 ベタの先輩が「西野のフェロモンでめまいがする!」と大声で叫びながら、ボールを体育館の照明にぶち当てた衝撃でガラスが割れ、火花を散らしながらコートの上に砕け落ちているではないか。


 別の後輩が「先輩の匂い嗅ぎたい!」と騒ぎ、コートに向かって走り回った挙句に派手に転ぶ。しまいには顧問が「西野! フェロモンで部員のメンタルを壊す気か!」と大激怒しながら、笛をピーピー鳴らすという地獄絵図が展開されてしまった。


「ウソだろ……なんでこんなことになったんだよ」


 呆然とコートに立ち尽くしながら観客席の悠真を見ると、楽しそうに瞳を細めて俺に声をかける。


「陽太、かっこいいね。体育館がすごく賑やかになった」


 残念なことにフェロモンの効果がまったく伝わっておらず、マイペースに拍手してるだけだった。


(――賑やか!? 俺のフェロモンがカオスにしたんだよ!)


 しょんぼりと肩を落としてコートから出て、コートの脇に這うように座ると、悠真が急いで駆け寄って来るなり、ハンカチを手渡してくれる。


「陽太ってほんと汗っかきだね。でもプレーしてる姿、本当にかっこよかったよ。ボールを投げてる後輩も楽しそうだったし」

「ボールを投げてる後輩って、チームメイトの顔面に向かって投げてたヤツだろ。それを楽しいなんて……」

「どこにいても、陽太の周りは賑やかでいいね」


 かくて俺の華麗なプレーよりも、周りの賑やかさに軍配があがり、悲しい結果になったのは明らかで――。


 しかもこの大惨事を招いた俺は責任を取るために、部活の後片付けを一週間ひとりでやる羽目になってしまったが、それでも俺は諦めない。悠真が俺を好きになってくれる可能性がある限り、がんばり続けてやるぜ!



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