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2-3

***


 昼休みに学食で、悠真からいろいろ話を聞くことができた。悠真の家族は姉以外、フェロモンを感知する能力が低いという情報を得られたのはでかい。


 しかもアルファのフェロモンを汗扱いされたことについて、ショックはデカいけど、悠真のマイペースな笑顔がかわいすぎて、逆に俺自身が燃え盛る燃料になった。


(きっと悠真は刺激の少ない、穏やかな家で育ったんだろう。だからフェロモンだけじゃなく、恋愛感情にも無知で寄せられる想いにも鈍感。でもそういうことなら、ガツンと放って刺激を与えて、気づかせればいいだけの話だ!)


 次の作戦を思いついた俺は、勢いよく椅子から腰を上げ、悠真を見下ろした。


「なあ悠真、昼休みまだ時間あるし、教室に戻る前にちょっと校庭歩かねぇ?」

「うん、いいよ。パン食べてお腹いっぱいになったら眠くなってきたし、ちょうどいいね」


 悠真は片目を擦りながらゆっくり立ち上がり、眠そうにあくびする。


(よし、接近戦だ。近くでフェロモンをぶわっと全開にして、鈍感なおまえにイヤでも意識させてやる。フェロモンに反応した悠真が告白したら、速攻OKだぜ!)


 校舎から校庭に出て、ふたりで並んで歩きながら、俺は意識してフェロモンをぶわっと放った。朝より距離が近いし、これなら汗とか言われない。


 隣にいる悠真の反応を覗き見たら、眩しそうに瞳を細めて空を見上げる。


「なんか風が気持ちいいな。眠気が飛んでいく」


(風!?  俺のフェロモンが風扱いって、どういうことなんだよ!?)


 内心絶叫した瞬間、近くでサッカーの練習をしてた後輩たちが騒ぎ出した。


「うわっ、陽太先輩からいい匂い!」

「西野先輩、近寄らないでください、集中できないっす!」


 風にのったフェロモンが悠真を通り抜けて、校庭中に拡散したらしい。しまいには先生まで「西野のせいで、練習が中止になったぞ!」って、遠くから叫ばれる始末。


「俺のフェロモン、また誤爆なのかよ……」

「校庭って賑やかだね。陽太はどこ行っても人気者だ」


 悠真は俺の横で、のん気にからから笑うだけ。俺の作戦がまたズッコケた現実に、心の中で「運命のつがい、遠すぎる!」ってさめざめと泣いた。


「ねぇ陽太」

「なんだよ?」

「陽太と歩くの楽しいよ。教室だけじゃなく校庭でも、賑やかなのがいいよね」


 俺の大好きな瞳を細めた笑顔で告げられただけで、救われる気がした。しかも昨日より悠真との距離感が近くなったおかげで、いろんな話もできたし。


 アルファのフェロモンは効かなかったけど、友達として確実に近づけてる立ち位置に満足しつつ、次こそは悠真に俺を意識させてやると心に誓った。



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