俺の名前は紫苑 勉(しおん べん)。
──さすらいのしょんべんマスターだ。
今日からこの私立厠高等学園に入学することとなった。
苦節五年、俺はじいちゃんと共に山奥で過酷な特訓を積んできた。
それもこれもこの学園長である実の父、紫苑 便大好(しおん べんだいすき)に復讐をするためだ。
五年前、俺は母である紫苑 弁出(しおん べんでる)が父に殺されたのを目撃してしまう。
父のしょんべんが母の胸を突き刺していたのだ。
細長くとても鋭利で液体であることを忘れるほど凝結されたそれは、まさにレイピア。
死に際に放った母の言葉が今でも思い出せる。
「勉、お逃げ。そして、このことは忘れるのよ……」
俺は母に言われた通りに家を出て一目散に逃げた。
父が母を刺したという驚きと、母はきっと死んでしまったという悲しみで涙がこぼれ落ちる。
焦り不安恐怖、色んな負の感情が俺を襲い、身体中から体液という体液を撒き散らし、宛もなく逃げていると俺の身体に異変が起こった。
「な、なんだこれっ!? 俺のしょんべんがっ!?」
漏らしたしょんべんがクネクネと伸びて固まったのだ。
こんな人前で漏らしてしまうだなんて恥ずかしい気持ちとしょんべんの変化に驚く気持ち、本当にこの時は何が起こっていたのかさっぱりだった。
「ほう。覚醒したのか。それもスネークソードとはな。珍しいのぉ」
顎髭を摩り、半袖短パンの老人が近寄ってくる。
「じいちゃん! どうしてここに……? か、母さんが!!!」
「皆まで言うな。こちらまでしょんべんの波動の余波が伝わってきた。概ね把握しておる」
じいちゃんは俺の言葉を遮るように手を前に出す。
それからしばらくの沈黙が流れ、じいちゃんは遠くを眺めて話し始める。
「ヤツは至ったのだ。しょんべんマスターの境地にな。だが力が強すぎで己の力に飲み込まれてしまったのだろう」
「しょ、しょんべんマスター!?」
「左様。この世には己のしょんべんを武器にして戦うしょんべんマスターという職業が存在する。しょんべんに愛され、しょんべんを愛し、しょんべんに認められた者だけが覚醒する。それがしょんべんマスターじゃ」
じいちゃんは公衆の面前だというのに躊躇いも恥じらいもせずにズボンを降ろし、しょんべんをする。
じいちゃんのしょんべんは三又の槍の形に変貌していた。
「そこの人、ちょっとよろしいですか?」
たまたま通りかかった警察官がじいちゃんに声を掛ける。
「勉、行くぞ」
じいちゃんは俺の手を掴むと、三又のしょんべんを思いっきり地面に突き刺し、その反動で俺たちは宙を舞い、この場から一目散に逃げ出す。
すごい、すごいよ、じいちゃん!
これが、しょんべんマスターなんだ!!!
「しょんべんっておもしれーや!!!!!」
この日、俺は母を失い、父は己の力に負け、じいちゃんは不審者となった。
過酷な日々の毎日だった。
しょんべんのコントロールのために水をたくさん飲まされ、しょんべんをする毎日。
コントロールが終われば体力作りに持久力や強度を高める特訓に勤しんだ。
気付けば心や身体、しょんべんまでもがガチガチになっていた。
「──当時が懐かしいな」
学園の門を見上げ、ぽつりと呟く。
俺はこの日のために特訓を積んできた。
しょんべんは道具じゃなくて友達だということを父に教えるために。
じいちゃんが不審者じゃなくて英雄だということを世界に知らしめるために。
あの時の母の死は無駄ではなかったということを証明するために。
俺はスネークソードになったしょんべんを使って学園の門を開いた。
カキン、という小気味よい音が俺の入学を歓迎しているように思えた。
ここから、ここから俺のしょんべんマスターへの第一歩が始まるんだ。