卒業旅行の日がやってきた。心配していた天気も何とかなり、青空が広がっていた。バスに乗って出発だ。
「あー! またやってもたー!」
後ろの席から大城さんの叫び声が聞こえた。澄さんのうんざりしたような声も。
「もう……ぼくが拾いますからね……」
どうやらまたお菓子をこぼしたらしい。僕は隣の渚さんと顔を合わせて吹き出した。
城崎温泉には七つの外湯があるらしい。大城さんは制覇するのだと息巻いていた。一旦旅館に荷物を預け、大城さんとは別行動だ。
「渚さん、澄さん、どこ行きます?」
澄さんが旅館から取ってきた紙の地図を見ながら言った。
「ここからだと……御所の湯が近い……」
「ほなそこ行こかぁ!」
髪の長い二人は結んでおり、渚さんはさらにヘアクリップで留めているという格好だった。湯につかりながら、僕は渚さんに尋ねた。
「なんでそんなに髪伸ばしてるんですか?」
「ロバート・プラントが好きでなぁ……さすがにパーマあてるんはやりすぎやからやめたけど」
「誰ですかそれ」
澄さんが補足してくれた。
「レッド・ツェッペリンのボーカル……」
「あっ……すんません、わかりません」
「瑠偉は洋楽聴かんもんなぁ。まあちと古いし」
僕は二人に言った。
「もっと音楽知りたいです。教えて下さいよ」
澄さんがちゃぷり、と湯を弄びながら言った。
「次の年度からは……洋楽やるのもアリかもね……色々教えてあげる……」
それから、一の湯、柳湯を巡り、もう満足してしまった。旅館に戻ってきたが、大城さんはまだだった。
「大城さん、夕飯間に合いますかね?」
「まあ、大城ちゃん食い意地も張っとうから大丈夫やろ」
今回、部屋は僕と渚さん、大城さんと澄さんで分かれていた。気を遣ってくれたのだろうか。時間ギリギリに大城さんがきて、食事処へ向かった。
「おおー!」
並んでいたのはカニのコース。こちらではズワイガニのことを松葉ガニというらしい。三月はカニが食べられる最後の季節だった。
それを堪能した後は、大城さんと澄さんが僕たちの部屋に来て酒盛り。僕はサイダーを飲んだ。
僕たちは今までのことを振り返った。初めて四人でスタジオで合わせた日。中ステ。オリフェス。そして何より、僕と渚さんが付き合ったこと。
もっと喋りたい、という時に、大城さんがお開きにしようと言ったので、思いの外、早く終わった。渚さんが言った。
「内風呂入ろか。狭いらしいけど」
「そうですね」
誰もいなかったので、浴槽で僕は渚さんにぴったりとくっついた。
「この甘えん坊」
「えへへ……」
この旅行が終われば、渚さんは卒業してしまう。けれど、僕との関係は続く。続けてくれる。
「渚さん……たっぷり、しましょう?」
「あんまり大きい声出しなや?」
浴衣を完全に脱がずにはだけた状態で楽しんだ。髪を振り乱して動く渚さんはとても艶っぽくて。くっきりと頭の中にその姿を焼き付けた。
二日目は城崎マリンワールドだ。水族館なんてほとんど行ったことがなかったので、僕は興奮してしまった。
「ショーは行きましょう! 絶対!」
時間をしっかりチェックしておいて、展示を回った。タイミングよくペンギンの散歩を見ることができた。大城さんはしゃがんで写真を撮りまくっていた。
「やーん、めっちゃ可愛い! ぺちぺちしとう!」
僕もじっとペンギンを見た。目が……合ったような気がした。僕は渚さんの腕を掴んだ。
「なんか、目はこわいっすね」
「そうかぁ? つぶらで可愛いけどなぁ」
ショーは最前列で見た。まず出てきたのはアシカだった。それからイルカ。呼吸を合わせて華麗なジャンプを決める様子は、音楽のライブにも似ていると思った。
「瑠偉、子供みたいやったなぁ。ずっと前のめりやったで」
渚さんが言うので照れてしまった。
「だって……迫力あったんですもん」
「今度は須磨の水族館も行くかぁ?」
「ぜひ!」
その後、アジの釣り堀に行った。釣ったアジは揚げてもらって食べられるらしい。
「あかん、全然釣れん……」
空っぽのバケツ。この様子じゃ一匹も無理かな、と思っていたら、澄さんが次々と釣り上げていた。
「澄さん、夏合宿の時といい……釣りの才能あるんじゃないですか」
「そうなのかな……釣りなんてほとんどやったことなかったけどね……」
揚げたてのアジを食べ、残りの展示を見て終わりだ。帰りのバスの中で、僕は渚さんにもたれかかった。
「瑠偉、重いー」
「疲れてしもうたんですぅ」
後ろから、大城さんと澄さんのヒソヒソ声が聞こえてきた。
「見事にバカップルになりましたね……」
「両方とも初彼氏やもんなぁ。しゃあないんちゃう?」
それからも、何やら二人は話していたようなのだが、僕はそのまま眠ってしまった。
「瑠偉、着いたで。起きやぁ」
旅は無事に帰るまでがセットだ。バスを降り、電車に乗って自分の部屋まで無事にたどり着いた。洗濯機に服を放り込んで、僕はベッドの上で渚さんに電話をかけた。
「渚さん……」
「なんや瑠偉、どうしたんや」
「声聞きたくて」
「さっきまで会っとったやろ!」
「だって、だって」
「もう、この寂しがり。今晩うち来てええで」
「洗濯物干したら行きます!」
足りない。全然足りない。渚さんとは一秒でも長く一緒に過ごしていたい。もう僕は、渚さんにどっぷりつかっているのだ。