「た、たたた、大変です!」
文官クルトが駆け込んできました。きっと大変な何かが起こったのでしょう。
「イノーマス帝国から皇帝と皇后、第二王子がいらっしゃると!」
「なんですって!?」
あまりに衝撃的な発言にその場にいた者たちは、蜂の巣をつついたかのように大騒ぎになりましたわ。
「いついらっしゃるの?」
「それが……」
「一週間後!?」
舐められている、そうとしか思えません。突然の来訪をギリギリに知らせるなんて。王子だけならまだしも、皇帝陛下も皇后陛下もいらっしゃるのは……。
「緊急性のない業務は全て中止します! 来訪に備えましょう!」
軍を率いていらっしゃる、そんな非常識は行わないと信じておりますが、何が目的なのかわかりません。何があっても対応することができるように備えておきましょう。
「クルトは軍に連絡を、そして、」
慌てて指示を出すわたくしとヤリアント様。念のために、メルティーヌ様にも同席いただいた方がいいかしら? いえ、弟子といえども、流石に他国の姫に頼りすぎだわ。我が国の力でなんとかいたしましょう。
◇◇◇
「突然ですまなかったなぁ」
来訪されたイノーマス帝国の皇帝陛下は、少しも悪びれずにそうおっしゃいました。
「小さな国ですが、ごゆるりとお寛ぎください」
「父上。彼女、面白いでしょう?」
おそらくわたくしのことを、ルファエラ王子はおっしゃいます。皇后陛下は黙っていらっしゃいますが、男性優位の国柄のせいでしょうか?
「父上。私は嫁に迎えるならああいう女がいいと思っている」
「そうだな。珍しくお前が気に入ったのならいいかもしれん」
そう言ってわたくしを指差します。人を物のように扱うのは、我が国が小国のせいでしょうか? それとも女性の身であるからでしょうか?
ヤリアント様がぎりりと歯を食いしばります。耐えきれず、口を開こうとした瞬間。
「皇帝陛下。ルファエラ様の元にそのような何処の馬の骨とわからぬものを置いてもよろしいのでしょうか? いつも皇帝陛下は“ルファエラに相応しいのは高貴な大国の娘だ”とおっしゃっているではありませんか。気軽に嫁にし、もしも、男児でも孕んだらどうするおつもりですか?」
皇后陛下が嫌なものを見る視線をこちらに向けながら、そうおっしゃいました。
「それもそうか……」
「そんな! 父上!」
「まぁよい。確認したいことは確認できたし、帰国するとしよう」
そうおっしゃって挨拶を済まし、部屋を出ていかれました。揉める王子と皇帝の姿が見えなくなったところで、皇后陛下がこちらに向かって丁寧に頭を下げてくださいました。もしかして、わたくしを守ってくださったのでしょうか……?
「確実にイノーマス帝国は我が国を手に入れるつもりだったな」
「そうですね。ついでにわたくしも狙われていると思います」
「ツリアのことは、僕が守るよ」
そう言ってヤリアント様が抱きしめてくださいました。しかし、どこともなく不安な気持ちに襲われているのはなぜでしょう。