「ツリアーヌ様! わたくし、あなたがヤリアント様の妻だなんて認めないわ!」
出会った当初、わたくしは失礼な態度をとっていましたわ。だって、父上はいつもいつも“ミリュー王国のツリアーヌ・フェイジョア嬢のような女性になれ”とわたくしに言うのですもの。反感を抱いても、仕方ないではありませんか。
「メルティーヌ様。こちらの書類を一緒に処理しましょう」
「……難しいわ! 第一わたくしがこのようなことを覚える必要があって!?」
文官に頼めばいいじゃない、そう口にしようとしたわたくしは、ツリアーヌ様の目の下にクマがあることに気がつきました。化粧で上手く隠しておいでです。しかし、そこまで身を犠牲にしながら、過ごしておいでなのですわ。
朝、わたくしが起床する頃にはきっと業務を開始しているのでしょう。わたくしの業務開始時間が10時半にされている理由は、明け方から機密文書の処理があるからかもしれません。ツリアーヌ様は、毎朝わたくしよりも早く目覚めて、夜はわたくしよりも遅くまで仕事をなさっているのです。まさに国のために働く女性ですわ。
そう気づいた時、わたくしはわたくしが恥ずかしくなりました。ツリアーヌ様はわたくしの発言の問題のある部分についてもしっかりと教えてくださいました。わたくし、ただただ権力にあぐらをかいて、義務を果たさない王族でしかありませんわ! そう気がついた時は、顔から火が出るかと思うほど、羞恥に震えましたわ。
「まぁ、メルティーヌ様。メルティーヌ様は覚えが早いわ。さすがね!」
一つの書類を終えると優しく褒めてくださるツリアーヌ様。わたくしのせいでツリアーヌ様の大切な時間を奪ってしまいます。それでも、嫌な顔をすることなく優しく教えてくださるのです。
「では、次はこちらの書類で応用を試してみましょう」
書類仕事だけではありません。マナーも教えてくださいました。
「国際的に共通のマナーがございます。そちらを覚えておけば、応用が効くのでしっかりと確認しましょう。まず、歩く時は、」
ツリアーヌ様の大切なお時間をいただき、マナーまで教えていただきました。自国では、お母様が“我が国のマナーさえ覚えれば問題ないわ。何よりも美しさが大切よ。メルティー。あなたは美しいのだから、自信を持ちなさい”といつもおっしゃっていましたわ。でも、美しさだけでは足りないのです。わたくし、そのことにやっと気がつきましたわ。ツリアーヌ様のおかげで。
だからわたくしは、お忙しいツリアーヌ様のために少しでもお役に立ちたいのです。優秀なツリアーヌ様は他国からも狙われているのでしょう。わたくしの持てる全てを使ってお守りいたしますわ!