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十一月・勤労感謝の日

 仕事がない日はゴミ出しを忘れがちだ。

 予備校の非常勤講師などをやっていると仕事の休みは不規則なのだが、今日は世間もぼくも休みである。月曜日が祝日になっていると、世間ではこれを三連休と呼ぶ。それなのに月曜はゴミの回収日でもある。祝日もゴミの回収は休みにならない。


 休日くらいゆっくり寝ていたいのに、朝ゴミを回収してくれる行政サービス。ありがたくもあり残念でもある。だいたい今日は何の祝日だったっけ? そうだ、勤労感謝の日だ。何を祝ってるのかさっぱりわからないが、勤労していることに感謝されながら──誰に感謝されるのかはわからないが──ぼくはゆっくり寝ているべきなのでは。これぞジレンマ。いったいどうしてくれよう──


「起きてる?」

 瀬川の声がきこえた。

 くぐもっているのは布団のせいだ。瀬川の休日は土日祝日。つまり彼にとって今日は連休最終日。


「せんせ?」

「……起きてる」

「どしたの?」

「……ゴ……」

「五?」

「ゴミ出し……」

「あ、今日は月曜か」


 隣で寝ているとき、瀬川は壁に似ている。朝晩冷え込むようになった今ごろはいい感じに暖かい壁だ。布団とセットになるとますます離れにくい。

「うー」

 ぼくは唸る。首の後ろで瀬川が笑うのがわかった。

「先生、一回くらいゴミ出せなくてもいいでしょ?」

「このまえ出しそこねたんだ」


 ぼくはふとんにもぐったままボソボソといった。先週の木曜日は世間は休日ではなかったがぼくは休日で、うっかり寝坊してしまったのである。

「今日出さないと木曜に三回分……」

「たいした量じゃないのに」

「……気分の問題なんだ」

「じゃあ起きる?」


 ぼくは黙る。その通り、起きて、生ごみと紙ごみをさっと集めて、外の集積所へもっていく、それだけだ。それだけなのだが……。


「あー」

 頭をぽんぽんと叩かれた。

「おれが行きましょうか?」

 ぼくはうつぶせで首をふる。

「いい。じぶんでやる」

「起きたくないんでしょ」

「……」

「いいって。休みなんだし」


 瀬川はそういうが、ぼくはのろのろと起き上がる。週五で朝九時から働くサラリーマン生活にならないままここまで来てしまったことを後悔はしていない。でも瀬川が社会人になってからはたまに残念に思うこともある。受験シーズンが近づくと休みがめったにあわなくなる。ほかにも夏期講習だの冬期講習だの、学会の締め切りだの。とはいえ今日は休日が一致し、だから瀬川は昨夜からここにいるわけだ。


 ぼくは頭をかかえて髪をくしゃくしゃにしたが、みると掛布団から瀬川の肩と腕がはみだしている。ついこのまえダブルサイズの掛布団を買ったのに。

 なぜかわからないが、急にいろいろなことがどうでもよくなった。

「──まあいいか」


 ぼくは掛布団をめくる。瀬川の体とふとんがつくる洞窟にもぐりこむと、瀬川はにやにや笑っている。

「で、ゴミは?」

「木曜にする」

「じゃ木曜におれが出します」

「なんで」

「水曜に泊まるから」

「平日だぞ」

「おれ、この上に住んでいるんですよ? 同棲してるようなものなのに」

「それはどうかな」

「またまた」


 ふとんの洞窟は薄暗くて暖かい。ぼくは瀬川の背中に顔をくっつける。また眠くなる。





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