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第56話:オーク

「ブモ? 」


 オークがこちらを見つけて戦闘態勢に入った。どうやら見逃してもらうようなことはできないらしいし、このまま戦うしかないんだろうな。


「一撃貰ったら多分昏倒します。回避に専念してください。鋤を見て私が攻撃を仕掛けます」

「わかった、俺達は囮だな」

「はい、それでお願いします」


 俺とシゲさんは結局あっちのダンジョンでも戦ったことがない相手だ。ここは戦闘経験者の言うことを聞くのが一番だな。


 地面や壁を叩きつつ、オークの気をこっちに引かせる。オークは俺とシゲさんが音を立てている方に意識が向いていて、庄司さんに意識が向いていない。今がチャンスかな。


 それを感じ取ったのか庄司さんが飛びつき、オークの首元に短剣を突き刺す。首筋に違和感を覚えたオークが体を揺すり、体に張り付いたままの庄司さんを振り落とそうとする。


「今! 」


 庄司さんが声を出す。よしきた。飛び出して庄司さんが振り落とされてターゲットになる前にオークに肉薄して俺は肩に、シゲさんは胸に一撃を与える。しかし、三人の攻撃でもまだオークは仕留めきれないらしく、血のようなものを流しながらもオークはまだ戦闘するだけの余力を残しているらしい。これが四層のモンスターの強さらしい。


「ブモゥゥ!! 」


 オークが叫びながら庄司さんを振り払おうとしたため、その間に短剣を引き抜いて距離を取る庄司さん。再び三人でそれぞれ距離を取り、オークを威嚇し始める。あんまり時間がかかるとオークの叫び声を聞いて他のモンスターが寄ってくる可能性はある。次の次ぐらいで勝負を決めたい。


 どうやら一番ダメージが大きかったであろうシゲさんに対してオークが近づき、こん棒を振り下ろす。シゲさんも腰を据えてこん棒を剣で受け止める。かなり腰に無理がかかるだろうから長時間は持たないだろう。こん棒と剣がお互いに刺さり合い、体勢が固定されているうちに庄司さんと俺で再び攻撃に回る。どこでもいいからとにかく突き刺して引き抜いて突き刺して……繰り返してオークの体力を削っていく。


 シゲさんの腰が持つか、それともオークが倒れるのが先か。しばらくシゲさんが抑え込んでいるうちに攻撃を数回加え、庄司さんが再び首筋に短剣を突き立てたところで、オークの力がフッと抜けていき、抑え込まれていたシゲさんが解放される。


 オークは徐々に黒い粒子となっていき、そして体が軽くなる感覚が全身を襲う。どうやら今のでレベルアップしたらしい。久しぶりの気持ちいい感触に少し酔いしれつつ、ちゃんとオークも魔石を残しておいてくれたことを確認する。


「シゲさん大丈夫か!? 」

「大丈夫、ちょとこしにピキッと来たが、今レベルアップして腰の調子も良くなったみたいだ」


 シゲさんもレベルアップしていたらしい。タイミングが良いな。


「オークでも100%……いや、まだ一匹しか戦ったことがないから解らない所か。でも魔石を手に入れられたのは五郎さんのおかげだな」

「それより早く報告しに戻らないとな。三層でもオークが出て、ホブゴブリンの予兆があったってことは、ダンジョンがあふれるってことでいいんですよね? 」


 庄司さんに確認を取る。庄司さんはコクコクと頷き、早く三層から離れようと提言する。


「早く受付に異常確認を報告しないといけません。私たちのほかに三層に潜っている人たちや、二層でゴブリンマジシャンの確認がされたことで私たちより早く到着してる可能性もありますが、とにかく急いで報告して討伐隊を組織してもらう必要がありますからね。また、中に入ってる探索者の確認もしなければいけません。急いで戻りましょう、悪い知らせは何回報告しても、それが同じ内容でも伝わらないことに比べれば何十倍もマシのはずですからね」


 庄司さんの言うとおりだな。シゲさんも俺もレベルアップしたことで体力的にも回復の兆しが見えているし、急いで戻ってその後どういう対応をしていけばいいのか学ぶ時間でもあるはずだ。せっかくのこの機会、余さず知識として吸収しておきたい。


 そのまま急いで三層を抜け出し二層から一層へ、一層から受付へと戻るが、たしかに道中のモンスターは行きに比べて少し濃くなっており、そして一層では出ないはずのソードゴブリンも確認された。これは確実に報告事案なのだな、と確認しながらの撤収作業だが、ちゃんと俺が一撃を入れて魔石を回収することだけは三人とも忘れていなかったらしい。金が絡むとどうやらちょっとだけ対応が変わるのが庄司さんの癖のようだ。


 まあ、老人二人を介護しながらの魔石回収作業なのではあるし、これから起こる事態についても魔石をのんびり回収している場合ではないのだろう。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 一層を抜けて受付まで駆け抜けた俺達は早速受付であふれが起き始めていることを報告。他の探索者からもあふれの前兆は報告が上がっており、三層でオーク、ホブゴブリンの発生を最初にこちらで報告したことから、あふれはほぼ決定的であろうという判断が下された。


 急いで討伐部隊が召集され、三十分ほどで討伐部隊……要するにあふれの原因となっているモンスターを討伐しに行く特別編性がなされ、早速”鉱山”の中へもぐりこんでいった。


 その間にこちらは二層と三層で得られた魔石を換金、三等分してあまりはシゲさんのものとなった。


「さて、これからどうするんですか? 」

「そうですね、私たちはあふれの前兆を報告したパーティーとして、あふれ対策に回らず現場待機であふれの間に増えたモンスターを駆除していく役割が与えられると思います。つまり、三層にはもう潜れない、ということにはなりますが二層程度ならおそらく問題なく活動できると思いますが、どうしますか」


 庄司さんが決めるのではなく、我々が今日の予定を決めて良いらしい。


「どうする? シゲさんは二層へ行くか一層でとにかく数を倒してみるか、という辺りの話みたいだけど」

「そうだな。ちゃんと動けてなかったって部分もあるし時間はまだある。二層で三層で出てくるモンスターを相手にしながら五郎さんの手伝いを受けてたっぷり稼いで帰るほうに一つ置きたいね」


 シゲさんは稼いで帰ることにご執心らしい。それに、あふれ中に二層で活動していたという報告が出来れば、三層でも問題なく活動できる探索者、というお墨付きは貰えるかもしれない。そう考えると今の時間を無駄にするのはあまりよろしい行為ではないな。


「俺もシゲさんと同意見だな。二層で三層の敵と戦えるのはちょっとお得と考えてみても良いぐらいだ。庄司さん、着いてきてくれますか? 」

「そういうことならわかりました。二層から一層へモンスターが行かないように食い止める、という建前で申告していきましょう。それなら問題はないはずです」


 庄司さんも稼ぐときに稼ぐ、で問題ないらしい。何気にこの三人、気が合うパーティーになれるんじゃないか?


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