三人で”鉱山”に出かけることになった。庄司さんは今日の収入がそれなりに多くなることが確定していると思っているのか、期待に胸を膨らませているのであろう、足取りが軽い。
シゲさんの装備は前と同じで剣。これもマツさんから別れの選別として渡された、以前から使っていたものをそのまま持って来たらしい。体の装備も前のままなので、懐かしさすら覚える。
「ここから二十分ぐらい歩けばダンジョンだから、そこで戦うことになるよ」
「町の中にあるのか。ちゃんと出入口は管理してるってことなのかな。出入口で外へ出てこようとしてるモンスターに対処する専用の人とかが居ることになるのか」
「そうですね、一層でも満足に戦えない人はここで複数人絵対応しながらモンスターの溢れ出しをとどめてもらう仕事についている仕事もあります。でも野田さんのお薦めの人材なら心配はないかもしれませんね。えっと」「加藤茂だ。シゲさんでいい」
「俺も五郎さんでいいよ、庄司さん」
「じゃあ、シゲさんと五郎さんで。五郎さんがいつも通り一撃入れて、残りを私たちが処理する形で良いんですかね」
「それで問題ないと思いますよ。さあ今日もしっかり稼いで行きましょう」
庄司さんの普段の稼ぎを考えると、二層三往復というのは充分稼げる範囲に入るらしい。もしかしたら今日は三層まで潜り込むこともできるかもしれないことを考えると、稼ぎはより大きなものになるかもしれないな。
そのまま”鉱山”まで、雑談とそれぞれの立ち位置の確認をすると受付で探索者証明書と三層まで行くかもしれないことを伝えて三人で入り口から”鉱山”内部へ入る。
「ほー、前いたダンジョンと見た目はあんまりかわんねえんだな」
「やはり、同じ感想を呟かれていますね。お二人がパーティーだったのは納得してしまいます」
庄司さんが俺の反応を思い出して一人納得している。
「さて、まずは真っ直ぐ二層まで行ってしまいましょう。道中のモンスターでシゲさんの実力を見せてもらうってことでいいですよね」
稼げる時間が限られていることがわかっているのか、それとも今日も一杯稼いで帰りたいのか、真っ先に二層へ向かうことを提案する庄司さん。それについては俺もシゲさんも納得だ。
道中のビッグラットやゴブリンについてはビッグラットを一撃で倒し、ゴブリンは少し俺が殴った後にシゲさんが一人で倒したことでゴブリンぐらいなら問題なく倒せることで実力のほどを知らしめることが出来た。
そのまま一層をスルーして二層に着き、本番のシゲさんの行動テスト開始だ。と言っても、シゲさん単独で撃破するのは最初の二体ぐらいのもので、その後はいつも通り俺が先に攻撃して傷をつけ、その後のトドメをシゲさんが刺す、という懐かしい連携できっちりゴブリンシリーズを片付けていった。
「おふたり、バッチリ息あってますね。流石というべきでしょうか」
ゴブリンアーチャーが居た際にはまずシゲさんに時間稼ぎをしてもらっている間に俺が走ってゴブリンアーチャーを優先して処理、それが終わり次第いつもの手順でモンスターを倒していくことでなんとかなった。
その後もモンスターの駆除作業は続き、背中のバッグの重さも質量もそこそこのものになっていく。シゲさんと体力の確認をしながら庄司さんに次のモンスターを探してもらいながら二層をうろつき、どんどん出会う相手を倒してはすべて魔石に変えていく。
庄司さんもこれにはにっこり。そして背中のバッグに積み重なっていく魔石の重さが成果の強調をしている。三人分のバッグが目一杯。つまり先日一回分で潜った二万五千円よりも確実に多く稼いで、昼までに帰ってこられれば昼飯代以上に儲けて帰ってくることができる算段が付くことになる。
いくらになるかまでは解らないが、二層でそのまま昼まで過ごして、午後から三層、という行程でもいけることになる。これは中々の収入になるな。
シゲさんとは今後もパーティーを組んでいきたいところだが、俺に引き合いを出してくれているというパーティーも気になる。一方的に断るのもアレなので、まず会って、それから内容について相談をして場合によってはシゲさんも巻き込んで一緒に、という路線も見え始めるか。
庄司さんみたいに斥候役をやってくれる人と、盾役かもしくはポーターがいればベストか。そううまいこと世の中が回るようになるとは思えないが、希望だけは出しておこう。どうか良い人でありますように。
昼前になって、三人のバッグはパンパンになったので一度入口まで戻り、換金所へ三人分の魔石を提出する。換金所のスタッフもこの前と同じ人だったので、どうやら人の入れ替わりが多い職場ではないようだ。
「庄司さん、前もおじいちゃん連れじゃなかったっけ」
「でもこの二人、とても頼りになるのよ。午前中だけでこの稼ぎだし、午後もご飯食べて三層まで行く予定なの」
「そう、まあ庄司さんなら心配ないと思うけど、怪我だけは気を付けて行ってきてね」
稼ぎの合計は三万八千円になった。ここは俺と庄司さんが一万二千円ずつ受け取り、残りをシゲさんが受け取るという形になった。
「二人のおかげで余分に稼げたことだし、昼飯は俺のおごりでも良いぐらいだな。それでちょうどいいぐらいになるだろ」
シゲさんの豪快な金の使い方に庄司さんも俺も肩をすくめるが、奢りの飯ほどうまいものはない。ここは素直に奢られておこう。それに食堂の定食は五百円で、俺と庄司さんがおごってもらってもシゲさんにはなお千円残る。今日の定食は何だろうか、たのしみだな。