目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第50話:鑑定

 庄司さんに連れられて、探索者事務所の三階へ通された。どうやら事務所の所長という立場の人が居るらしく、その人の前で詳しく調べられるらしい。


「お待たせしました、野田さん。お久しぶりですね」


 待っていたのは井上さんと、もう一人知らない人だった。


「これは井上さん、お久しぶりです。おかげさまで今のところ何とかやっております」

「探索者登録に来たお爺さんが居た、という話を聞きましてね。私が連れてきた何人かの一人ではあると思っていたんですが、庄司さんの報告を聞きましてね。そんな特殊なスキルをお持ちなら是非鑑定をして、正しくスキルについて知ってもらうことが必要だとは思ったからですよ」

「なるほど、それで時間がかかっていたのですね。では、鑑定してもらえるということでいいんでしょうか」


 この不思議な【豪運】と呼ばれていたスキル、ダメージを与えたモンスターが必ず魔石を落とすというこの現象に名前を付けてもらえるようになるわけか。これで胸を張って、俺が攻撃さえすれば利益が確定するので何処かへ連れてってください、と大っぴらに言えるようになるわけだな。


「では、鑑定のほうをよろしくお願いします」

「かしこまりました」


 井上さんと一緒に居たもう一人が俺をじっと見る。どうやらこれが【鑑定】スキルで鑑定をするという行為に当たるらしい。


 しばらくじっと見続けられて目が合う。その目が合ったまま、じっと動かない俺ともう一人の人。


 見つめ合いは五分間ほど続き、やがて向こうから目線をそらした。


「出てません」

「え? 」

「彼はスキルが現出していません。どうやら魔石が100%落ちるというのはスキルではない様子です」


 スキルじゃ……ない? どういうことだ?


「つまり、野田さんはスキルではなく体質として、魔石を100%落とさせることができる、ということでいいんですね? 」

「私の鑑定結果だとそういうことになります。ですから野田さんの体質……これはスキルではないと断言できます」


 鑑定士の腕が悪くて、というわけではなさそうだ。ということは体質とスキルとはまた別の物であるということなんだろう。


 しかし、体質とはな。スキルだと思っていた技能がスキルではなく、そういう体質だ、と説明さえることで謎が余計に増えた気がする。


「野田さんのス……体質については間違いないんですよね? 庄司さん」

「今日午前午後合わせて三往復ほど二層を巡ってきました。私が一撃を入れただけのモンスターは通常のドロップ、野田さんが一撃でも攻撃を加えたモンスターでは100%魔石が落ちることは間違いないですね。それは保証します。というか、そうじゃないとあれだけの量のドロップを拾って帰ってくることに説明がつかないと思いますし、もしもそれだけの数の魔石をドロップするほどのモンスターの量を倒してきたと仮定しても、それだけの動きが出来る野田さんを探索者として活動させないことは我々に対する損失だと考えてもいいと思います」


 庄司さんが俺を擁護してくれている。100%ドロップするのは間違いないし、もしそれが二人でついた嘘だとしても、それはそれで大量のモンスターを倒すだけの実力があるので遊ばせておくのはもったいない、ということなのだろう。


「野田さんには正式に二層までなら自由に行動をする許可証としての探索者証明書を発行させていただいてます。もしも他の人とパーティーを組むならば、そのパーティーの最大階層までは潜り込めることになりますので、あくまでソロ探索に赴かれる際の基準として考えてください」

「解りました。もし基準を上げたい場合はどうすればいいんでしょうか? 」


 いつまでも二層でうろついているとは限らないので、三層、四層と奥へ行く機会が出来るようになる場合はどうすればいいんだろう。俺がレベルアップしてより強くなった場合、二層では手持ち無沙汰になる可能性もある。そうなった場合どうすればランクアップできるようになるかが分かっていない。


「その場合、他の探索者に連れられて行った時に一緒に申請していただくことで三層、四層、更に奥、ときちんと活動できるかどうかを他のパーティーメンバーの進言によってランクアップすることになります。庄司さん、現段階で二層まで、というのはどういう基準で申請されたのですか? 」

「そうですね、斥候役が必要である、という考えがまだ頭の中にあるからですね。まだ初日ということでもありますし、いきなりそれ以上奥の階層に進まれると奇襲や陰からのモンスターの接近に気づないかもしれません。もう二、三日様子を見てその後で三層でもいける、という風に考えることもできますが、今日一日の動きを観察して今のところなら明日からいきなり単独で潜られるのであれば二層までが限界かな、と判断したところです」


 庄司さんが素直に告白してくれる。まだ場慣れが足りない、ということらしい。たしかに、”鉱山”に入ったのは今回が初めてではあるし、それを理由にまだ早いと言われるのであればその通りだろう。


「なるほどね。実力のほどはどうだろう? 二層で苦戦するようなことはあったかな? 」

「そちらのほうは問題ないかと。三層へ向かっても問題ない程度とは思います。二層のモンスターに対するにも問題ない動きをされていて、年齢を感じさせない軽快な動きを見せていました。レベルがいくつなのかは解りませんがかなり戦ってきた、ということは解ります」

「あ、ちなみにレベルは二十六ですね。加齢による衰えがあるものの、それをレベルで補っているというところでしょうか」


 どうやら俺のレベルは二十六らしい。あっちに居た時は計算してなかったからレベルアップの旅に小躍りする程度の話だったが、どうやらそこそこの高さには達しているようだ。レベル二十六ってどのぐらいの強さになるんだろう。


「レベル二十六ですか。若者なら四層までは問題なく進めるレベルではありますが、野田さんの場合は無理をさせたくないですし、四層まで無理に潜るよりも三層で確実に魔石を集めるほうが効率的ではあるでしょうし、そもそも二層で一人で巡られても問題ないかと思います。現状は二層まで、ということでよろしいですか」


 ふむ……たしかに深くまで潜っても、戻ってくるまでに持ちきれないほど魔石を持って帰ってくる可能性もある。持てない魔石を落として無駄にするよりも、浅めのところで確実に持ち帰ってくる方が大事だと言える。


「大体理解しました。とりあえず潜る相棒を探すところから始めなくてはいけないというところでしょうね」

「どうしますか? 大っぴらに野田さんの体質を広めることでよりパーティーが組みやすくなるようにすることもできると思いますが」


 悩みどころだな。無理して深い階層に付き合うことになる可能性もあるってことか。


「そうですね……どうしたもんかなあ」

「とりあえず今日は庄司さんが付き添いをしましたが、今後はお一人でも活動をされるということになるんでしょうかね」


 一人で探索か。一層なら問題なく出来るが、二層でとなるとちょっと心配があるのは確かだな。


「しばらくはそれで”鉱山”の様子を試しつつ、日銭を稼いで行こうと思います。いつまでもお世話になり続けるわけにもいきませんし」

「そこはまあ、マツさんに託された部分でもあるので問題はないのですが自活をしようとしている姿勢は結構だと思います。期限を切っていつまでに、とやるつもりはありませんので出来るだけ無理をしないように頑張ってください」


 井上さんからは今しばらくの宿泊場所を提供してもらえることを確約できた。後はちゃんと稼げるようになって、敷金礼金をそろえた上でちゃんと借りれる家を探すのも一つか。とりあえずの目標は出来た。明日からまたダンジョン探索か。やってることはマツさんの元に居た頃と同じと考えたらそれほど変わらない生活を送れるって事でいいんだな。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?