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第49話:そういえば探索者試験だった

 そのまま午後の探索活動を再開する。お腹も膨れて元気いっぱい、今度は一層をスルーして二層へ直接向かう。どっちにしろ魔石は落としてくれるのだから真っ直ぐ行かなくても昼の腹ごなしにちょうどいいとは思ったのだが、魔石の価値的には一層の魔石よりも二層の魔石のほうが価値が高く、重量比も若干いいらしく、二層で目一杯稼ぐ方が高効率だと教えられた。


 だったらなおさら早いこと探索の相棒を探さなければならないな。シゲさんやタカさん、スギさん達は今頃どうしているのだろうか。彼らとまたパーティーと組めるようになれれば三層も問題なく戦えるような気がするのだが、お互い新しい人生を進み始めたんだからまた戻ってくるようなことをさせたくはないという気持ちもある。

「何かよそ事でも考えていらっしゃいますね? 」


 考え事をしながら探索をしているのに気づかれたのか、庄司さんから注意される。


「すいません、以前一緒にパーティーを組んでいた仲間のことを考えていました」

「パーティーを組んでダンジョンに入っていた人たちですね。どのような人たちだったんですか? 」

「私と同じ老人でしたよ。私より年上の人も何人かいました。みんなでパーティーを組んでモンスターを倒して。そして何とか今日まで生き延びてきましたよ」

「どうやって食料を調達してたんですか? さすがに畑を作って作物を育てて、というわけにもいかなかったでしょうに」

「まあ、なんとか方法があったのでそこは。とにかくみんな生きるのに必死でしたが、楽しい時間でもありました」


 思い出すなあ。もしかしたらあの日々も悪くはなかったのかもしれない。だが、今は今、あの時はあの時、切り替えていこう。


「さて、そろそろ二層に着きますから戦闘準備しましょうね」

「よし、折半じゃない内に一杯稼いで帰りますか」

「そうしてください。さあ、稼ぎますよー」


 ◇◆◇◆◇◆◇


 そのままきっちり二往復、二層での探索を続けた。俺が先に攻撃さえすれば後は何とでもなるということがハッキリしているため、俺がとにかく前衛で一発ずつ殴り、庄司さんが後から止めを刺すなり、俺が一発で倒してしまって庄司さんの出番がないような場面も見受けられたが、ちゃんと仕事をして帰ってきたのは間違いない。


 そして庄司さんの斥候能力のおかげで効率的なモンスター狩りが出来たのも確か。やはり斥候役は必要だな。


「今日は仕事が楽なのにこんなにお給料もらっていいんですかね」


 合計三往復分のお小遣いをもらってほくほく顔の庄司さん。これでもしお互いが暇だったら折半だったということを考えても、二層で充分に金を稼ぐことは可能らしい。


「本当は庄司さん、もっと深い階層でも活躍できるのでは? かなり楽々とモンスターの相手をしていたようにも見えますが」

「まあ、三層ぐらいまでならよくいきますが。でも二層でこれだけ稼げるなら野田さんとなら喜んでお付き合いしますよ」

「それは嬉しいですね。先に死んだ嫁さんに自慢できることが増えましたよ」


 さて、事務所まで戻らないといけないな。今日一日三往復、二層でしっかりと探索が出来て探索者として稀有なスキルを持っている人物として目を付けられる可能性はあるが、その噂が広がれば探索仲間を集めやすくなるんじゃないだろうか。


「後は事務所で報告をするだけですね。今日一日ちゃんと働いて、私の補助があるとはいえ二層で問題なく活動をされていた、ということでおそらく探索者としての登録は叶うと思います」

「それは有り難いですね。この年でもう後できることなんてほとんどないですから、出来るだけ多くの魔石を稼いで帰って誰かの役に立ちたいところです」


 魔石は燃料にもなるし、場合によっては通貨代わりに利用されることもあるらしい。また、これはごく一部しか知らないことだがマツさんのゲルへ向かって魔石を納品していくことで、一部の今ではもう手に入らないような品物と交換する等、使い道は多岐にわたる。


 モンスターを倒してどうして魔石に変わるのかははっきりとはわかってはいないらしいが、こうなってしまった以上この現象に納得してしまうしか方法がない、というのを随分前のニュース番組でやっていたな。


 魔石が貴重な資源である以上、定期的に算出する必要があり、その為の”鉱山”ということになる。つまり鉱山労働者にジョブチェンジすることになるわけだ。


 事務所に戻り、手続きを待つ。庄司さんは受付で報告書をまとめた後、奥へ行ってしばらく帰ってこない様子。さて、老人は待つのは得意なんだ。しばらくゆっくりさせてもらおう。


 しかし、久しぶりにダンジョンで活動をした割に体は元気だ。これもレベルアップのおかげなのか、それとも二日後ぐらいに来るのか、今のところ判明していない。二日後だったら辛いだろうな、大丈夫かな俺の身体。


 たっぷり二十分ほど待ったところで、庄司さんが帰ってきた。


「お待たせしました野田さん。これ、探索者証明書です。それと……スキルというか、野田さんの体質のことでいくつか質問を儲けさせてもらう機会を頂きたいのですが」


 受け取った探索者証は緑のストラップだった。運転免許の初心者マークを思い出すな。首から吊り下げられるようになっており、何かの係員になった気分にさせられる。


「質問をされるのは構わないのですが、いつこちらに来ればよろしいですかね」

「その……出来れば今からという話だとありがたいのですが」


 ふむ、それでこっちに報告に来るのが遅れたのかな。物事は早い方がありがたいし、俺もいつ死ぬかは解らない身。出来るだけ世の中のためになろうと思えばこそ、素早い行動が必要だ。


「では、今から向かいましょう。予定もないですし、あとはどこかで夕飯を見繕って帰ろうと思っていた所です」

「お手数をかけます。どうぞ、奥の三階へよろしくお願いします」


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