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第48話:一休み、一休み

 昼になり、荷物が一杯になってきたところで一旦精算とお昼ご飯の補給を兼ねて戻ることになった。そういえばお昼ご飯のことをすっかり忘れていたな。近くに飯を食えるところはあるんだろうか。流石に人の出入りがそれなりに多い施設でもあるし、何かしらあるだろうと思いながら、帰り道の一層でビッグラットとゴブリン相手に半ば片手間の様子で戦う。


「この近くってご飯食べるところあるんですかね? 」

「事務所の食堂なら探索者は利用できることになっています。今日は一日とはいえ野田さんも探索者扱いになるので利用できることになっていますよ。それに、午前だけでこれだけの収入が見込めて一層は確実に、二層でも問題なく戦えるということですから、探索者として登録できるとは思います」


 庄司さんの言葉に一安心する。これで問題なく稼ぐことができる。自立への道がまた一つ近づいたな。


「一応探索者はランクによって”鉱山”に関してもどこまで潜れるかを判断する力量基準があるんですが、野田さんの実力なら三層以降に潜るだけの実力があると思います。ただ、二層以降に潜るには基本的にパーティーを組んでもらう必要があるんですね。一層ならソロでの活動も認められているんですが、二層以降に潜る際はだれかパーティーメンバーを探してもらう必要があります」


 なるほど、パーティー推奨というか強制なんだな。今日は庄司さんがいるから二層まで問題なく潜り込んでいるところだが、明日以降は他の人を探さないといけないってことか。


 一層を出て受付に戻る。庄司さんは受付に行かず、その奥にある換金所へ向かった。俺もそれについていく。


「ここで換金できます。換金しないものは出さなければいいのですが、今回は魔石ばかりなので全部換金してしまいましょう。結構ありますから結果には期待して良いと思いますよ」


 庄司さんが換金所で自分のバッグに入っていた魔石を取り出してカウンターに並べる。続いて俺の分も魔石を全部出す。


「あれ、庄司さんじゃん。なに、何日分をまとめて出してくれてるわけ? 」

「そうじゃないのよ。これで午前中の分。で、しかも私の取り分は二割。ほとんどはこの人のお・か・げ」


 そういって俺を前に出す。


「どうも、今日から探索者を始めました野田です。換金お願いします」

「こんなお爺さんが? それにこの魔石シールドゴブリンのよね。庄司さん、無理させて二人で二層に潜ってとってきたんじゃないでしょうね? 」


 換金担当の職員は庄司さんを疑っている。まあ、相棒がこの俺ではそう思うのも不思議ではないんだろうな。


「ところがそうじゃないのよ。この人スーパーおじいちゃんなのよ。倒したモンスターが必ず魔石を落とす特殊スキルの持ち主かもしれないのよ。まだはっきりとはしてないんだけど」

「ま、今日のところは良いわ。……はい、全部で二万五千円ね。庄司さんの分は二割って言ってたから五千円、別で出しとくね」

「ありがとう。午後からの気力が湧いてくるわ」

「午後からも行くの? 本当に無理させちゃだめよ? お爺さんも庄司さんに無理言われたからって気を付けていかなきゃだめですよ? 」

「大丈夫よ、この人そんなにヤワな人じゃないわ。二層へ行くのもこの人から言い出したわけだし」


 どうやら庄司さんとこの換金担当の人は相当仲がいいらしい。もしくは職員と探索者同士しっかりと信頼が築けているという証拠なのかもしれないな。


 とりあえず二万円になったらしいことが分かった。午前中だけでこれだけ稼げたなら午後もしっかりと稼いで、今日一日で出来る所まで稼いでしまいたいところだな。


 代金を受け取ると、また来てねーという信頼の挨拶と共に送り出されていく。さて、食堂はどっちだろうか。


「食堂はこっちですよ。五百円あればまあ満足に食べられるので安心して良いと思います」


 庄司さんに連れられ食堂のほうへ行く。食堂では昼の繁忙期を過ぎていたからか、そこそこに空いていた。今日のメニューはコロッケ定食がワンコインメニューらしく、庄司さんも俺もそれを選択。しっかり動いた後だからもうちょっと胃袋に入れてもいいとは思うが、午後からも仕事をすることを考えるとあまり食べ過ぎるのも良くないだろう。


 メニューを伝えてサッと出て来るコロッケ定食を受け取ると、庄司さんと机を並べてさっそくいただきます。


 どうやら揚げ物をするだけの油がちゃんと供給されてるあたり、食料事情はそれほど変化していないらしい。ご飯も結構多めに盛り付けられている。ソウルフードであるご飯が山盛りに食べられることはとてもいいことだ。添え物のキャベツやトマトもきちんと育っているらしい。


「どうかしましたか? 動き過ぎて食べられないとかじゃないですよね? 」


 飯をあれこれ見ている俺に対して庄司さんが怪訝な表情をしている。


「いえ、きちんと配給も食事も行き届いているんだな、と思いまして」

「まあ、最前線ですからね。腹をすかしながら働け、というのは難しい話なのでそのあたりここは結構優遇されているんですよ。ただ、魔石の取引価格でそれなりに安めに買い取られているんですけど」

「ではさっきの取引金額は結構多めの取引だったってことになるんですかね」


 うむ、コロッケうまし。うまい飯はその後の活力にもなるからな。もし可能なら帰りもここを利用したいところだ。


「そうですね、さっきの私のやり取りを聞いてもらった通りですが、あの量を普通に集めようと思ったら二日か三日かかるぐらいの量になりますね」

「なるほど。効率としては六倍ぐらいってことになりますね」

「そうなります。今日の私の取り分二割っていっちゃいましたけどもうちょっともらっておけばよかったですかね」


 ペロッと舌を出してかわいこぶる。だが、約束は約束だ。今日は二割、それだけは譲れない。


「今後も組んでくれるなら折半でも良いんですけど、流石にそういうわけにはいかないですよね」

「私も予定がありますし、事務所の仕事もありますから毎回一緒に潜る、というわけにはいかないんですよね。でも、お互い手が空いてる時に仲良くやっていく、というのなら大賛成です。とりあえずご飯食べたらまた潜るってことでいいんですよね」

「はい、この後もよろしくお願いします」

「任されました。流石に二人で三層は厳しいとは思いますので、二層を二往復ほどする工程になるとは思いますが午後からも頑張りましょう」

「ええ、とりあえず今日一日よろしくお願いします」


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