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第47話:二層での訓練

 三十分ほどで二層に到着したらしい。二層と言っても一層から階段を下りるわけではなく、平面上でつながっている形になるらしい。少し細くなった道を抜けた先が二層、ということらしい。どうやらダンジョンというものはモンスターの強さによって階層を分けているらしく、ダンジョンの場所によっては一層からいきなりゴブリンアーチャーが出て来るようなダンジョンもあるらしい。


 この”鉱山”は階層の区分けが分かりやすく、活動するのにそれほど難がないことから便利に利用されている部分もある、というのは庄司さんの説明だ。


「階層ごとに解りやすくモンスターが別れているなら自分の実力でどこまで潜れるかが分かりやすいですからね。その点でもこの”鉱山”は比較的難易度も低くて探索者というくくりで言えば、万人向けのダンジョンなのかもしれません」

「ここからはどんなモンスターが? 」

「シールドゴブリン、ゴブリン、ソードゴブリン、それと時々ゴブリンアーチャーが出ますね。ゴブリンだらけです。その分魔石の収入のあても大きいんですが、野田さんのすきるがほんものだとすると、ここは稼ぎどころかもしれません」


 ふむ、前のところで言う二層と三層がまとめて二層として存在する、というところだろう。壁や天井は一層と同じで明るくきらめき、ここも明かりが要らない階層らしい。片手が確実に空くのは便利ではあるし頭にライトをつけなくていい分だけ視界も広い。


「ここも戦いやすくていいな。見落としさえなければ奇襲される心配もなさそうだ」

「でも斥候として周りを把握するスキルを持っている人が居ればもっと効率的にモンスターを対峙することが出来ますよ。例えば私は斥候スキルとしてモンスターを三次元的に観察することが出来ます。第三の目を持っている、みたいな感じですね。【鷹の目】と呼ばれています」

「その【鷹の目】は珍しいスキルなのですか? 」

「いえ、結構広く知られたスキルですね。なので危険が迫っている場合、例えばモンスターに囲まれそうになっているとかそういう事態を事前に回避することが出来ます。私が今回監視役兼引率を頼まれたのもそれが理由でもあります」


 ふむ、あの時は詳しくは聞く機会がなかったが、タカさんも同じような斥候スキルを持っていたということだろうか。だとすると相当楽に探索をさせてもらっていたことになる。パーティーメンバーの選定って大事なんだな。


「さて、こっちにゴブリンの気配があります。二匹ほどいるようですが両方ともいけますか? 」

「やってみます」


 洞窟の曲がりくねった先、少し広くなったところでゴブリンとシールドゴブリンが向かい合って会話のようなものをしていた。流石にゴブリン語は解らないが、楽し気に肩をポンポンと叩き合ってる仕草をしているのはなんだか人間らしさがあっていいな。今から殺すのがかわいそうになってくる。


「さあ、行きますよ。先手はお譲りするので自由に戦ってみてください」

「解りました」


 庄司さんの合図で飛び出す。ゴブリンはこちらの奇襲に戸惑い、あたふたと武器を取り出して応戦しようとする。まず、シールドゴブリンからだな。守りに入られると色々面倒だし、シールドを構えられる前に槍を突き刺し、盾を持ってるほうの腕を傷つける。


 戦闘姿勢そのままゴブリンのほうへ向かい、ゴブリンが振りかぶってくるこん棒を槍先でそっと軌道をそらさせ、胴体が空いたところで槍を突き刺し、両方にダメージを与えることが出来た。後は庄司さんとうまくやり取りしながら両方を倒せば魔石が出るはずだ。


「盾頼みます」

「任されました」


 庄司さんにシールドゴブリンの対処を任せて、ゴブリンに確実にトドメをさす。ゴブリンは黒い粒子となり消え去っていった。同じタイミングで庄司さんもシールドゴブリンを倒し終わり、それぞれの魔石を拾って確認する。


「やっぱり野田さんが攻撃すると魔石が確実に落ちる、という現象は続きますね」

「正式なスキル名は解りませんけど、そういう現象が起きることは間違いないみたいですね」

「どこのダンジョンでも通用するスキルということは確認できたと思います。モンスターの強さも関係なく確実に魔石が落ちるような気がしますね。もっと深く潜ればより強いモンスターでも確認できるかもしれませんが、今日のところは二人しかいませんし、そこまで深く潜る予定ではないんですよね? 」


 庄司さんにそう問うと、素直に顎を縦に振ってこたえてくれた。


「事務所から言われていることは、ちゃんと戦えるかどうか、について確認することだけは言われてきましたので、二層を一人で巡れるなら充分探索者としての働きが出来るレベルにあると判断できます。なので試験、というかお試しはここでおしまいにするべきなんでしょうが……どうしますか? もう帰りますか? 」

「質問なのですが、この拾った魔石は収入に出来るんでしょうか? 」


 魔石を入手して帰るのはいいんだが、換金ないし生活物資に変える方法は何かあるはずだ。それを聞いておかないとせっかく探索者見習いとしてここまで来た意味がない。


「受付をさっき通ったと思いますが受付の更に奥に魔石の換金所があります。そこで提出すればお金に変えてくれますよ」

「じゃあ、もっと頑張って山盛り持って帰れるように頑張りましょうかねえ。ところで、折半で良いですか? 」

「一応私は事務所から正式な以来という形で来てますのでお給料は出てるので、拾得物は全部野田さんのものでいいんですが……そうですね、二割貰いましょうか。二層で背中を預ける費用ということで」

「それでいいならわかりました。せっかくですししっかり稼いで帰りましょう。


 二人の今日の予定は決まった。体力が持つか、荷物がいっぱいになるまでこの二層でひたすら作業に耐え、出来るだけ稼いで帰ろうという話にお互いが納得し、しっかりと稼いで帰ることになった。


 まだ俺にはこの小さめの背嚢一杯の魔石でいくらの価値があるのか、そして実際に手にすることができる金銭がいくらになるのか、という知識が足りていない。もしかしたらただの一層二層を巡る程度では、カバン一杯の魔石でも一日やっと食いつないで行ける程度の報酬しか期待できないかもしれないのだ。


 マツさんの元に居た頃は、マツさんがどのぐらいの魔石を集めればどのようなものと交換できるのか、というのを広く周知させていたため、その日の上がりで皆を喰わせることができるのか、余分に溜めておいて生活用品に回せるだけの余裕があるのか、などが分かりやすくされていた。


 その点こっちはまだ初日でどの魔石がどのくらいの価値で、どれだけの収益を上げることができるのか、ということはまだわかっていない。何はなくとも金は必要だ。いつまでも井上さんの提供してくれた家で生活をするにも申し訳がない所であり、出来るなら早めの自立をして自分一人でも稼ぐ手段を得るためにここにいるのだ。


 もしも二層をめいっぱい回ってそれでも生活するにはなお足りない様子であった場合、より深く潜れる探索者パーティーを斡旋してもらって、一撃を入れることで確実な収入が見込めるような形の何かしらを相談できないかどうか確かめる必要もある。残り短いとはいえ、色々考えることが増えたな。


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