「この階層……というかこの辺りにはどんなモンスターが出るんですか? 他のダンジョンを知らないので参考までにお尋ねしたいのですが」
庄司さんに世間話を兼ねて質問をする。
「そうですね、この辺りだとビッグラット……大きいネズミとゴブリンが出ますね。どちらか御経験は? 」
「両方とも、と言ったところでしょうか。モンスターの種類で言えばゴブリンマジシャンやゴブリンアーチャーと戦ったことはあります。勿論一人ではなくパーティーを組んでという形になりますが」
「なるほど。ではこの辺りなら問題なく戦えると考えてもいいかもしれませんね。……百メートルほど先で接敵します、準備をお願いします」
庄司さんが腰につけたショートソードを持つ。こっちも槍を構えてモンスターと出会う準備をする。壁や天井が明るいおかげでモンスターが陰から接近してきてバックアタックを受ける、という心配がないので楽だな。
出てきたのはゴブリンだった。相変わらずの臭さと、そして醜悪な顔。緑色をしたその風体は相変わらず憎たらしい小僧を思わせる。
「よう、久しぶりだな」
そう言いつつ駆け寄ると、ゴブリンの頭部目指して一気に肉薄し、頭に槍を突きさす。ゴブリンはとっさの判断が取れなかったようで、そのまま串刺しにされて頭から首にかけて槍に貫通され、そのまま消え失せた。後には……いつも通り魔石が一つ。どうやら、あのダンジョンだけで通用するスキルではないらしい。こっちのダンジョンでも無事に自分のスキルらしい【豪運】は発揮される模様だ。
「初回から魔石が出るとは運がいいですね」
「そうですね、でもこれからもっと驚くことになると思いますよ。次を探しましょう」
「は、はい。次は……まだ見えないのでもう少し歩くことになります」
この”鉱山”もそうだが、一層というのはそれほどモンスターが多いわけではないらしい。移動時間のほうが戦闘時間よりも長い傾向にある。二分ほど歩いて次のビッグラットが現れ、こちらに駆け寄ってきたが、ビッグラット程度の素早さなら充分に対応はできる。相手の攻撃を避けて、ビッグラットが俺の首筋に噛みつこうとして空振りをし、その着地点に向かって槍を着きだすと、ビッグラットはそのまま黒い粒子に変わっていき、魔石を落とした。
「ビッグラットも問題ありませんね。にしても魔石の運がいいですね。普通はもっと落ちないはずなんですが」「まあ、回数を重ねたらわかると思います」
そのまま周回しつつ、時々は庄司さんも参加しての戦闘を行う。俺が倒したモンスターは魔石を落としていき、庄司さんの倒したモンスターは三割ぐらいの確率で魔石を落とすことが分かった。普通はやはり三割ぐらいなんだな。
「あの庄司さん、一つ試してみて欲しいことがあるんですが」
「なんでしょう? お願いで聞ける範囲のことならばできますが」
「私が先に攻撃を与えて、その後で止めを刺してもらってみても構いませんか? 」
「それは……なるほど、そういうことですか。わかりました、試してみましょう」
というわけで前衛を俺が勤め、トドメと後衛を庄司さんに受け持ってもらうことにした。元々問題ない程度のモンスターの強さのため、どっちが後衛どっちが前衛と決める必要もないぐらいだが、斥候役が斥候に徹するにはそのほうがやりやすいという配慮もある。
そのまま一層をもう少し巡り、三十匹ほどのモンスターを駆除して、落ち着いて少し休憩というところで庄司さんから疑問が飛ぶ。
「もしかして、野田さんが攻撃すると魔石が100%落ちる、なんてことはありませんよね。さっきから魔石を拾う確率が異常です、異常」
「お気づきになられましたか。実はそうらしいんですよ。詳しくは調べてもらってないのでよくわからないのですが、ある人によるとこれが私のスキル、ということらしいです」
庄司さんは顎に手を当ててしばし考えると、顔を上げて納得するような形でこちらを見る。
「魔石ドロップの確定化ですか。確かに聞いたことはないですね。それがあればこの階層でも数をこなせばこなしただけ魔石を入手することが可能になります」
「より深い階層でも同じことです。ゴブリンマジシャンまでは戦ったことがあるというのも、このスキルのようなものを活かして、私が傷をつけた相手をみんなで倒すことで報酬として確実に魔石を得られていました」
「それが本当なら大変なことですね。探索者としてもそうですが、貴重な資源の担い手として野田さんが出来るだけ自由に活躍できるだけの環境をご用意しなければいけないほどになります」
「そうなるとありがたいですねえ。おそらく前に住んでいたダンジョンと同じなら一層ぐらいなら問題なく一人でも回れると思います」
「住んでいた……ですか。まあ、人間色々あるでしょうしダンジョンに住んでいたというのも野田さんの個人情報でしょうから聞かなかったことにしておきます。あくまで私は今日かぎりのパートナーなので」
ふむ。あまりそう言うところには深くお互い入り込まない、という取り決めでもあるのだろうか。まあ、たしかにダンジョンから帰還して戸籍を変えて昔の名前を捨てて、というのは充分訳ありの人生とも言えるしな。自分語りはほどほどにしておかないといけないか。俺について知りすぎて庄司さんがこの先生活しづらいことになっても困る。
「さて、そろそろ二層に向けていこうと思うのですが、許可をくださいますか」
二層でもっと美味しいモンスターを倒しに行きたいという気持ちでいっぱいだ。背中のバッグに山盛り魔石を持ち帰ったら充分に活躍できる探索者として箔が付くことにもなるだろう。
「そうですね、野田さんの実力ならおそらく私と一緒なら二層も問題なく戦えると思います。体のほうも充分動くようですし……野田さんってどのくらい訓練というか、体を動かしたりモンスターを倒したりしてきてるんですかね? 」
「数えてないから解りませんが、相当頑張ったほうではあると思いますよ。とはいえ若い人にはかないませんから限度はあると思いますが」
「まあ、とりあえず二層へ向かってみましょう。無理そうなら一層に戻って楽な探索をするだけでも問題はなさそうですが、野田さんの限界みたいなものを見てみたい気がしてきました。二層はこっちですから着いてきてください」
庄司さんの先導でダンジョンの奥へ向かう。もし向こうのダンジョンと同じぐらいの難易度なら、二層でも問題なく活動はできるはずだ。