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第44話:野田五郎大地に立つ

 side:竹中三郎改め野田五郎



 息子夫婦との別れを済ませ、孫の顔も見て、心残りは無くなった。これからは野田五郎としてはっきりと過去とは決別して生きていかねばならない。


 生きていくには飯を食う必要があり、飯を食うには金が必要だ。一応コミュニティからしばらくは困らないだけの金と寝床だけは用意してもらってあるが、いつまでもそれに頼って生きていくわけにはいかない。早めの自立を促される前に自立しようとしているというポーズだけでも見せていかなければならないな。


 そうと決まればやることはまず、探索者登録からだろう。コミュニティの人に教えてもらった建物に向かい、探索者登録をする。


「すいません、探索者登録をしたいんですが」

「探索者登録……失礼ですがお年はいくつですか」


 流石に俺の年齢がまずいと思ったのか、年齢を確認される。


「今年で63になります」

「そのお年で探索者をやる、というのはかなり難しいとお見受けしますが」


 やはり、年齢的な限界があると思われているらしい。新人で明らかにご老体が登録する、ということには問題があるらしい。


「一応、戦った経験は無数にありますから大丈夫だと思います。それに、どうやら私にもスキルというものがあるようなのでそっちでお役に立てると思います」


「そうなのですか……ちょっとあちらに腰かけてお待ちくださいね」


 そういうと担当者は奥に引っ込み、何やら相談を始めた模様だ。流石にこんな老体で登録に来る、というケースはやはり珍しいのだろう。


 奥からは「そんな年で? 」や「流石にお断りしてしまうしか」や「いやでももし凄い人だったら何とかなるかもしれないから登録するだけして返してしまうのもアリでは? 」など、わりと失礼な言葉が聞こえてきている。この辺もレベルアップの影響なんだろうな。本来なら聞こえなくてもいい雑音やひそひそ声もある程度までは聞き分けられるようになってしまった。


 しばらくして相談がまとまったらしく、係員がこちらへ戻ってくる。


「お待たせしました。野田様もご年齢があまりにいってらっしゃいますので、探索者登録をしていただくにも無理があるんじゃないか、ということで一つ試験をさせてもらってもよろしいですか? 」

「試験、ですか」

「はい、実際に探索者として活動していただくのに無理が無いよう、アシスタントを着けますので、まずは”鉱山”のほうへ向かっていただいて、そこで何らかの活動をしていただく。その結果を持って探索者としての実力があるかどうかを確かめさせていただきたく思います」



 なるほど、ようは実地試験ということか。ちゃんとそこで動ければ無事に探索者登録が終わるという寸法なんだろう。俺にとっては逆にわかりやすくていいな。



「解りました。”鉱山”というのは具体的にどこを指すのですか? 」

「ここから一キロメートルほど東に、踏破、破壊せずに魔石を取り出すために生かし続けているダンジョンがあるんですよ。魔石の採掘場という意味で市街地にもかかわらず二十四時間運営で管理されていて、モンスターの一匹も余さず討伐されている状況です。そこに入っていただいて、実力の確認、ということで探索者として活動ができるかどうかを判断させていただきたいと思いますが」



 なるほど、やはり養殖場みたいに管理しているダンジョンもあるんだな。きっちり破壊せずにモンスターが湧くことを見越してそこを潰さず管理して、自分達が生活するだけの糧を得ている探索者も居るってことなんだな。


 マツさんのところでは余すところなく生活物資として変換されて食料などに替えられていたが、同じようなスキルを持っている人が存在するならそっちに集積されている可能性だってある。マツさんと同じようなスキル、所持者は一人や二人いてもおかしくはない。もし居ないのならばマツさんは相当レアなスキルを持つことになった探索者、ということになるのだろう。



 いや、実際そうだったんだろうな。そうでなければ九年間も痕跡を探し続けて追いかけられて連れ出さないまでも貿易という形でマツさんとの顔つなぎを残していくようなことにはならなかったはずだ。



「今から行きますか? それとも後日ですか? 私はどちらでも構わないのですが」

「そうですね、こちらも野田さんを護衛するために一人探索者を見繕う必要がありますので少し時間がかかります。明日の午前九時にこちらへ再度来ていただけますか。それまでに手はずを整えておきます」



 どうやら前向きに検討をされていることは解った。明日の約束になってしまったので今日はもうやることがない。部屋に帰って明日用の装備を見繕って、おかしいところがないかとかそういう確認を取るために今日は早めに退散してしまうことにしよう。



「探索者事務所」と名前の付いている建物を出て、部屋に帰る。部屋にはマツさんから選別としてもらった槍がまだほこりをかぶるほど立てかけてあるわけではないが、出番を待っている。槍の重さも俺の体格に合ったちょうどいい一品だ。明日からはこいつが相棒ということになる。グッと握ると、マツさんのゲルに居た頃の思い出がよみがえる。



「さて、明日からまた働くことになる。無理はしない範囲でやっていくとするよ、マツさん」





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