トシさんの法事から数週間が過ぎた。俺を含めた第二パーティーも三層、場合によっては四層での活動を許されるまでになり、探索者としての実力もさながらに俺のスキルらしい【豪運】のおかげもあってマツさんの財布の中身もかなりゆるゆるになりつつある。
相変わらずのモンスターの薄さではあるものの、階層を跨ぐことによって増えるドロップ品の量は深い分だけに多く、時々は第一戦闘パーティーの代わりにマツさんの財布(中に入れるだけ)を持ち歩くことも許されるようになり、より難易度の高い探索でもある一定の余裕をもって活動するようになってきた。
シゲさん、タカさん、スギさんも健康状態は非常によく、これでも老人か、と思われるような動きで巧みにモンスターを翻弄したり、殴り倒したりしている。順調、と言っていいだろうな。俺自身も持ってる武器を簡易槍からちゃんとした槍に持ち替え、より確実にダメージを与えていくようになった。もうただ殴るだけで残りは周りに任せる、と言ったような動きではない、パーティーの立派な一員だとそろそろ認めてもらってもいいような気がする。
そのことについてシゲさん達に言うと「何言っとる、元々立派な一員じゃ。戦う目的がモンスターの殲滅ではなくて魔石の回収なんだから、確実に魔石を回収できる三郎さんはただ居てくれて一撃殴ってくれている段階でもう仲間だよ」と、俺の思いと若干外れた回答をくれていた。そうじゃないんだけどな。
今日も四層に潜って早速出会ったゴブリンマジシャンが魔法を唱え始めるが、魔法が発動するよりもこっちが槍を投擲してゴブリンマジシャンに当てるほうがはるかに早く、そして確実になった。こうなればボーナスゲームみたいなものだ。一応槍は毎回確認して破損がないか確認している。
欠けでもしたら大変だしもし当てるのを外したら……という不安は付きまとうが、その時は肉薄して無理矢理口をふさぐなりサブ武器として持っているナイフを突きさす形でも対応できる。およそ老人四人とは思えない連携で圧倒されていくモンスターたち。今日も美味い飯をありがとう。
「三郎さん、先三時にアーチャーが二匹」
「了解、片方は槍投げで対応してかすりでもしたらトドメよろしく。残りはなんとかする」
ゴブリンアーチャーが離れたところから弓を引き絞っている姿が淡く浮きだされている。片方に槍を投げつけ、ヒットしたのを確認すると、もう片方に肉薄する。アーチャーから放たれた矢は俺に刺さることなく、その前に握られて威力を失う。飛んで来る矢を掴んで捨てられるようになったのもレベルアップの恩恵かな。
そのままナイフ一本で近づき、すれ違いざまに首に一筋刃を入れる。これで両方のゴブリンアーチャーにダメージを入れられたはずだ。倒せば魔石が出ることは確実。俺に遅れてシゲさんが槍を投げたほうに自分の槍を突きさし、確実に止めを刺していく。
目の前のゴブリンアーチャーも、くるっと向きなおして改めてナイフを首に突きさし、しばらくグリグリと傷跡を広げた後一気に切り開き、出血を拡大させる。しばらくしてゴブリンアーチャーは黒い粒子に変わっていった。そしてちゃんと落ちる二匹分の魔石。さすがにドロップ品までは入手できなかったが、確実に収入を得ることが出来たのは重畳であると言えるだろう。この調子で今日も頑張っていくぞ。
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四層でゴブリンシャーマンとゴブリンアーチャーを相手にして、荷物がいっぱいになったところで二層のセーフエリアに戻る。帰ると松井さんが笑顔で出迎えてくれた。
「おかえりなさい。今日も無事でしたね」
「ただいま戻りました。今日も大漁ですよ」
「助かります。これでまた肉が食えますよ」
俺が四層に行くときは肉が腹いっぱいとまではいかなくても、確実に食えるぐらいの稼ぎを叩きだしているのはみんなも解っているらしく、ワイワイと騒ぎだす。俺の稼ぎで喰う肉は美味いか? 美味いよな。俺も美味いと思う。
「三郎さんが来てから食生活が向上したし、トイレの落とし紙に困ることもなくなったし、三郎さんには感謝してもしきれんわ」
「あんまり褒めると調子に乗ってまた転ぶからほどほどにしんさい」
「そんなに転んではいないはずですがね。あの時はちょっとつまづいただけです。足元はレベルアップのおかげでしっかりしてますから問題ないですよ」
なんだかんだ、マツさんの次ぐらいに大事されているような気がする。確実に魔石を拾って帰ってくるだけなら、俺抜きで四層に潜って俺がひたすら一層でうろつき続けて、新しい住人を探すのと並行して稼いで帰ってくる案というのも出した。
しかし、確実に大きな収入になる四層に潜ってくれる方がありがたいし、一層や二層は魔石目的だけでなく皆の健康状態の維持のためのレベルアップにも使うから、より利益の大きいほうの仕事についてもらいたい、とのことになった。俺の思いつくようなことはみんな考え込んでいて、その上で答えを出してくれていたらしい。
楽して稼ぐにもちょっと冒険をして稼ぐにしても同じだけの手間なら、より利益をもたらす方を優先する、というのは魔石の残量が命の灯の残りと同等である自分たちにとっては、マツさんの【ネットショッピング】スキルがまず存在し、そこに俺の魔石ドロップ100%というスキルらしいものが付随することによってより確実な利益と安心と安全と便利を確保することができる。言われてみればその通りである。
いつも通りにしていればいいというのは確かなようで、日々レベルアップをしながら魔石を稼いで帰ってくるのが日課になった。もうマップも覚えたし、モンスターがどの辺に湧きやすいかまで頭に入りつつある。俺も完全にここに慣れてきたって気がするな。