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第22話:回想 3

 絶対生活圏を車で抜けて二時間。幹線道路沿いとまでは行かないものの、少し揺れるが山の中をずんずん車で進んでいく。多少踏み固められた道があるのはモンスターが踏み固めていたのか、それともそれ以前に人類が山道として利用していたかまでは想像がつかないが、ともかくダンジョンのすぐ近くまで車で入り込めるので交通の便としては悪くないらしい。


 尤も、交通の便がいいと言うことはそれだけモンスターも外に出やすいということであり、その分危険度の高いダンジョンであると言うことはブリーフィングで伝えておいた。もしかするとここから更にモンスターが湧きだし続けていずれ絶対生活圏までたどり着く可能性があるということだ。


「道があって良かったですね。この道も地図には記載がない所でしたが、少なくとも何回かトライする為には重要なラインではあります」

「つまり来易くモンスターも倒しやすくて、しかもモンスターが出現しやすい場所って事だな。これでモンスターがダンジョンから出てこないタイプならよりよい稼ぎ場にはなりそうだ」


 皆口々にこれからのダンジョンについての事前情報を受けたうえで会話をしている。このダンジョンはモンスターが湧き出てくるまでの間は付近にモンスターが生息しないことが確認されているため、今は安全であるという事だろう。その為、本来なら緊張して現地に挑む所ではあるが皆リラックスして緊張を解そうとしている。


「食糧の心配は無いですから何日かはとどまっていられますが、三日で戻ってきてください。先行情報によると次のモンスターのあふれだしは三日後のようですので、それまでに戻ってこられない場合、次の支援は七日後になります。三日間ここで待機して誰も帰ってこなかったら我々輸送班は安全のために撤収しますのでその点はご容赦を」


 運転をしている輸送班から念のための注意が飛ぶ。


「問題はダンジョン内にどのくらいモンスターが居るかだな。モンスターがあふれる際はかなりの量のモンスターが吐き出されてくるって話だし、もしかしたら下層から上層まですべてのモンスターが外に出てくるのかもしれんそうなったら大激戦だ。さすがにこの人数では対処するのは難しいだろうな」

「そうなる場合は安全なエリアを見つけてやり過ごすしかないでしょうね。有ればの話ですが」

「安全なエリアの確保とモンスターの種類の確認、それから下層の調査、可能ならばダンジョンの攻略、あたりか」


 前衛担当で大剣を自在に振り回すダメージディーラーを担当する粕谷が確認を取る。


「そうですね。流石に一週間分の荷物しか用意していないので、腰を落ち着けて探索という訳にはいきませんが、出来るだけ深くまで調査したいところです」


 松井は何処か引っかかるようなものを覚えながら探索予定について話す。何かを見逃している気がする。なんだろうとは考えているものの、いまいち納得できないその考えの落としどころを探しながら簡易ブリーフィングを終わらせる。残りは現地に到着してその後開くべきだろう。


 車でダンジョンのある周辺を探索し、ダンジョンの前までたどり着いた。どうやらこのままダンジョン内部に突入することも可能らしい。


「入れるところまで入ってみようか。第一層だしモンスターもそれほど強くない可能性は高い。最悪引き殺してでも奥へ向かうつもりで一つ威力偵察してみようじゃないですか」

「賛成、帰り道もどこまで潜り込めるかの指標になりますし、今回がダメでも次回があります。次回用のダンジョン探索用の大まかな広さや幅、モンスター分布なんかを確かめるのも大事ですね」


 他の隊員の意見も聞くが、そのまま車で入り込んでいくことに問題はなさそうだった。


「そういえば、車で轢いた場合乗ってる全員が強くなるのか? それとも運転手だけか? 」


 少し精神的余裕があるのか、誰かが茶化す。


「運転手に入るってのが主流意見ですね。車の体当たりは武器判定になるそうですから、だそうです」

「ということは殺意マシマシの車で轢き続ければ運転手でも強くなれるって事か」

「その前に車のほうが持たなくなってくると思いますけどね……ダンジョン入ります」


 速度を少し落とし、ダンジョンにそのまま車ごと入る。ダンジョンの中はオーソドックスな……というかトンネルを掘って広げた鉱山跡のような形の、ダンジョンというより洞窟というほうがイメージとして近いほうのダンジョンだ。石造りで整然と整えられているダンジョンか、この鉱山跡のような穴ぼこだらけのダンジョンが一般的なイメージとしてのダンジョンとして主に語られる。今回は鉱山跡風味を引いたらしい。


「意外と静かですね。密度はそれほどでもないんでしょうか」

「かもしれませんね。そのまま慎重に、出来ればヘッドライトは控えめにお願いします。モンスターを呼び寄せる事にもなりますので」


 車のライトを消し、わずかな明かりを頼りにダンジョンの中をゆっくりと進んでいく。途中でモンスターを引いたらしく、ギュイっという音共に振動が感知された。


「何か轢いたみたいですね。経験値おめでとうございます」

「ごちそうさまです。出来れば予想されるモンスターの探索位置までは出会いたくなかったですが」

「周辺警戒をしながら行きましょう。まだ車で入れるとはいえ、ゴブリンぐらいなら出会っても不思議ではありませんから」


 車はゆっくりと、しかし確実に進んでいく。しばらくして、車では突入できない広さのところに差し掛かった。ここで降りるか、それとも退却するか。


「退却するにはまださすがに早いですね。少しここで様子を見てそれから突入という形にしませんか」


 粕谷はやる気に満ち溢れている。ここまでただ車に乗ってきただけの彼としては、早く暴れてダンジョンへ行って帰ってきただけの戦果を確実に持って帰りたいのだろう。


「それはそうなんですが、ここのダンジョンの情報がまだありませんからね。モンスターがあふれ出てくるタイミングというのも気になりますし、何処か身を隠せるところがあれば一番なんです。今から突っ込んでいく、というのも確かにありなんですが……どうしましょうかね」


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