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第21話:回想 2

 生活圏開放担当として三ヶ月ほど経ったが、まだスキルは生えてこなかった。よくパーティーメンバーとして同行する人にも相談をしてみたが、スキルは人によって違いがあるらしく、遅くスキルに覚醒したからといって使えるもの、探索者として非常に役に立つものが必ず出て来るかどうかは決まっていないらしい。そして、死ぬまで探索者としてのスキル覚醒にたどり着かないまま生涯を終えてしまった例も数多くある。


 今のところ手持ちの知識でなんとかパーティーメンバーとして役にたててはいるが、スキルが覚醒した時に本格的にそれを役立たせるところかどうかは覚醒してみないと解らない、というのがどうやら世の中の共通見解だという事に間違いは無いらしい。だとすると、私はこのまま知識面でのサポートをしつつ、モンスター退治の経験値を分けてもらって徐々に成長していくしかないのかと思うと申し訳ないという気持ちが押し寄せてくる。


 今日もこの後ブリーフィングを終えたら生活圏から遠く離れたところに出来ているダンジョンの攻略だ。このダンジョンは他のダンジョンとは特色が違い、特定の曜日にモンスターが地上に出てきて周辺を荒らしまわり、特定の曜日になると帰っていくという特殊なダンジョンらしいことが斥候の報告から上がってきている。


 ここはダンジョンとしても中々の難易度を有していると言っていい。特に、特定曜日にダンジョンからモンスターがあふれ出てきて特定曜日に帰っていくという、地上に影響が出てくるのはその期間だけ。その期間中にモンスターたちを倒せばそれで終わり、という事ではない。おそらく、モンスターは奥から出てきて地上の様子を見て、何かしらのアクションや地上の様子を観察しては戻る、というものかもしれないし、単なる日光浴かもしれない。


 モンスターが地上に出てくるということは、その広がる範囲はダンジョンの勢力圏とみることが出来るだろう。この現象を解決するには地上に出ている間に戦うのはおそらく土地勘や足場や戦える環境からして、ダンジョンの中で戦闘を行うのが最も安全であると言える。曜日は決まっているので、ダンジョンの中に帰っていくタイミングでこちらも潜入すれば余計な戦闘をせずに進んでいけるだろう。


「松井さん、方針は決まりましたか」


 新しく斥候役として送られてきたパーティーメンバーが攻略法について疑問を呈してくる。


「おそらくですがダンジョン内で戦闘を行っていくのが最も安全策であると思います。外に散らばれたらどこから攻撃されるかもわかりませんし。あなたの監視報告からすると、モンスターは地上に出た後バラバラに活動して時間が来たらまた帰っていく、という行動を繰り返しているようです。どういう理由でそう動いているかどうかは解りませんが、密度の高い戦闘になる可能性は非常に高いですが、これが一番ダンジョン開放への近道だと思います」

「では、やはり帰っていったタイミングで我々もダンジョンに潜り込んで地図を作りつつ安全圏を探す、という形になるのでしょうか」


 彼は結構結構優秀だ。入手した情報を精査して最も効率的にモンスターを倒す方法について考えついてでの質問なんだろう。


「問題はどれくらいの戦力があるか、ですね。それに、ダンジョンの中に戻っていったとして、ダンジョンから出てくるモンスターがそのまま固まってダンジョン内にモンスターの拠点と呼べる場所を築いているかのかも確認しないといけません。まず真っ先に見つけるべきはダンジョンの安全圏の確保でしょうね。長期戦になるかもしれません。準備は念入りに行きましょう」

「長期戦になるんですか……それなりの装備が必要になるんでしょうね」

「食糧や水分もそうですが、装備の予備も欲しい所ですね。どうやら報告によるとオークの出現も確認されてるようですし、ゴブリンだけを相手にする、ということは難しいでしょう。戦力としても充分な実力者が必要になってくると思います。これから戦力の見積もりと必要な物資の調達に向かおうと思います」


 なんだかんだで後方支援も慣れてきた。何処の部署にどんな報告書や請求書を出すかも慣れてきた。出来ればこのダンジョンは早めに潰しておきたい。やることが多いな……


 何とかダンジョン開放のための探索所定書類と人員の確保、必要な人選を済ませると、松井は一区切りついたと小休止を取っていた。海外からの輸入品が減ってきた今、貴重品となりつつあるコーヒーを飲み、カフェインの力でもうひと踏ん張りして必要書類と物品の確認、出発時期など必要であると思われるものを一通り済ませると、やっと後方支援の仕事が終わったと充てられた自室のベッドに倒れ込んだ。


 思いつくだけの手配はした。後は上手くダンジョンを踏破できるかどうか。こればかりはぶっつけ本番でなんとかするしかない。それを楽にするための手配は住んでいるはずだ。そう考えていると、しばらくぶりに熟睡をした。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 ダンジョン攻略当日。人員二十名。斥候役が二人、壁役が四人、メインアタッカーである攻撃力を有した人員が六人。後方支援として三人。治療スキルを持つ者が二人。ポーターが三人である。ポーター専門がついてくるのはダンジョン攻略がメインとしても、ダンジョンのモンスターから産出される魔石や武具は出来るだけ持ち帰って、赤字事業でもあるダンジョン攻略部隊の収入面でのカバーをいくらか用意する必要があるためだ。


 作戦立案担当として、出発式の前に軽く演説ではないが、全員に伝えることがあるためにマイクを取った。


「今回のダンジョン攻略は普段とは若干違う内容になる。このダンジョンはおそらくだが、決まった時間にダンジョンからモンスターをあふれ出し、そしてまた決まった時間に戻っていくという特殊な仕掛けが施されている。我々が突入するのはモンスターがダンジョンへ帰っていったタイミングで突入することになる。モンスターを倒しながら奥へ行くことも大事だが、全体の地図が出来上がっている訳でもない。荷物が多いのはその為だ。最初は探索に違和感や荷物の多さで辟易するだろが、ダンジョンへ入ってしまえばある程度の荷物や食料の消費があるため徐々に楽になっていくと考えられる。また、現地までの輸送は輸送部隊に一任するので、近くまでは比較的楽にたどり着くことが出来る。ダンジョン内では危険だと思った際はその場で撤収を指示する。現在調べている内容だと出てくるモンスターはゴブリンが数種類とオークの存在が確認されているが、上位種が混じっている可能性もある。充分に気を付けていこう」


 簡単な演説を終わり、早速移動車に乗り込みダンジョンへ向かう。生活安全圏からは車で一時間半。比較的開けたところにダンジョンがあるため、入り口や場合によってはダンジョン内まで移動車を走らせることが出来る。しかし、移動車まで襲われては部隊構成外ではあるが連絡役にも危険が及ぶ可能性があるのでダンジョンの入り口までで見送ってもらうことになる。もし、ダンジョンに我々が入った後でダンジョンからモンスターがあふれ出てきた場合、彼らには急いで逃げてもらって攻略失敗を伝えに行く伝令としての仕事もある。


 今回のダンジョン攻略は気は抜けない。上位種のオークが出る場合、今回の部隊編成では勝てない可能性も考慮に入れて置く可能性がある。何事も最悪の手段というのは用意しておくに限る。


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