引き続き狩りを行う。マツさんの戦闘熱は大分収まったようで、戦闘の補助をしつつ俺に一発殴らせた後確実にモンスターを仕留めていく優秀な攻撃手として活躍してくれている。
戦闘時間もその分短くなり、順調に魔石も溜まっているし、普段ならその辺に捨て置いてダンジョンに吸収させていたモンスターの装備のドロップもマツさんが直接貯金箱に入れることで無駄のない狩りが続けられている。
「マツさん本当は第一戦闘パーティーに行きたかったのでは? 」
マツさんの実力に対してこの場所では明らかにオーバーキルだ。この際ハッキリ質問をしてしまう事にする。
「それはそうなんですけどね。三郎さんのスキルの実力を確かめたいから出かけるってほうが口実としては確実なものに出来ましたから」
「なるほど」
とにかく運動をしてストレスの解消をしたかった、という事は解った。なら今日一日は楽をしながら狩りが出来るという事だ。荷物も軽くしていける。
「来てしまったものはしょうがないし、マツさんに甘えつつ、いつもより成果を稼いで帰ることにしようかね」
シゲさんはもう諦めたらしい。そして真面目に稼ぐ方向にシフトしたらしい。
「マツさんの援護はワシもするから心配いらん。しっかり魔石を稼いでたまには贅沢品でも食えるようにした方が建設的だわ」
スギさんが盾を構えて前に出る、ということらしい。そもそも普段より人が多い、いや、俺がどっちかというとオプションで、本来はマツさん含めて四人のほうがバランスよく戦えるんだろう。俺はそこに一発投じることで稼ぎを確固たるものにするのが役目だしっかりやっていかないとな。
それからの狩りは順調そのもの。いつもよりも人が一人多い分だけ対応が早くなり、俺が自由に動ける時間も増えた。いつもならタカさんが戦闘に参加するところを省略できているため、新しいモンスターを見つけて戦っている間にタカさんは少し先へ行って次のモンスターを探しに行く役に徹してくれていた。おかげで次のモンスターを探す手間が更に省け、より手早く狩りを行う事が出来ている。
ドンドンペースは上がっていくが、休憩もちゃんととる。良い歳なんだ、トイレが近いからと水分を取ることを控えめにして腎臓にダメージを与えそうなものだが、肉体労働で嫌でも汗をかくし、マツさんから休憩中には必ず水分を取るように徹底されているので水分は体に沁みこみ、そして排出されていく。
ダンジョン内だから当然のようにトイレはない。小便ならその辺でサッとやっちまえるしダンジョンが自然に綺麗にしてくれるから便利な物の、大きいほうは問題だ。まず物陰を探すところから始め、物陰にモンスターが居ないかどうかを確認次第他のメンバーが離れていくのでその間に済ませ、尻を拭く。使わせてもらっているダンジョンには非常に申し訳ないと思いながら、後始末はダンジョン任せだ。数時間で臭いごと消えてなくなるそうなので普段からそうしている。
人数が多いとここまで楽なのか。戦闘班ももう一人増えたりはしないだろうか。だが、戦闘に一人増やすということは他の部署に負荷がかかるか、新しく捨てられてきた老人が一人増えるという事にもなる。ちょっと複雑な心境である。
◇◆◇◆◇◆◇
戦闘を続ける事合計八時間、一時間おきぐらいに周りに注意しながら休憩をしつつの狩りが終わった。ほとんどの魔石はマツさんが直接貯金箱に入れたので実際の金額は解らないが、明らかに普段よりも戦果が高かったように感じる。
危険を感じた時は俺が殴る前にシゲさんが先に倒してそのカバーに入る、なんて作業も行っていた分がマツさんによって補われた結果、普段の二割増しぐらいの魔石数を獲得したのではないか。後はモンスターが時々置いていく装備品や装飾品、これらも貯金箱に収まったため、実際の収穫はそれ以上だったかもしれない。
「さて帰りましょうか。これ以上開けるとさすがに苦情が溜まるでしょうし、私も良い運動になりました。今日はありがとうございました」
「ま、たまには、程度なら運動に付き合わんでもない。あまり頻繁でなければええんじゃないかな」
最初は不満顔だったシゲさんも明らかに楽な戦闘と多い戦利品に満足したのか、態度はかなり軟化したように見える。
「さ、帰るまでが狩りじゃ。戦果を見せに帰らんとな」
タカさんが周りを確認しつつ老人ホームへの帰りの道筋を確かめていく。
「マツさんは本当に強いですね」
「元々は探索者でしたからね。普段動いてないだけでまだまだ鈍ってないって事でしょうよ」
マツさんは本当に何者なんだろうか。探索者を辞めてまでここで老人ホームで助け合い生活を続ける理由、ここに来ることになった原因、そしてここに集まった人たち。
お互いに詮索は不要という不文律はあるが、マツさんについては本当に謎が多い。他の面々はこっそり聞いてみたりこっそり教えあったりするようなのだが、マツさんはかたくなに過去を語らない。マツさんの過去について知ってる人物は果たしているのだろうか。
いや、居たとして、聞いたとして、それで何が変わるんだろう。日々を過ごすことに違いはないのではないか。逆にその情報を仕入れてしまう事で居づらさみたいなものを感じる事にはならないだろうか。
「今日は久しぶりにお酒が飲めそうですね」
マツさんが頭の中で貯金箱の計算をして、どうやら食後に酒を飲めるほどに今日は稼いだらしい。
「それはいいな。皆で一杯ずつやって、体を温めて寝ることにするか」
「マツさんが毎回来れば毎日酒が飲めることに」
「それはちょっと過剰労働かな。とりあえず明日は大名行列で狩りも休みの日ですし、多少の寝坊や二日酔いは許容できるでしょうからね」
マツさんはそう笑顔でみんなに話している。その笑顔につられて笑うが、心のどこかではまだ納得がいかないところがあった。