セシルは王宮を出て、ロジャーたちのもとへと急いでいた。
「ひとまずセシルの家族に事情を説明して、それから父上たちにも話そう。
君の家族にも、くれぐれも気をつけるように伝えて」
アルはそう忠告するとセシルを送り出した。
もちろんセシルには護衛を数人つけてくれていた。またマーヤがセシルを狙ってくるかもしれないからと。
「アル……あいつはすごい奴だな、自分も辛いだろうに」
自分の母親があんな
セシルや国を守るために、アルは個人的な感情を捨て正義を
アル、おまえこそ王になるべき人間なんだ、セシルは改めてそう感じていた。
セシルはスラム街を抜け、森に入る。
家が近づくにつれ気持ちが
「ただいま！」
扉を開けると、信じられない光景が飛び込んできた。
「え……」
家の中の床や壁のいたるところに血がついている。
ゆっくりと目を動かしていくと床で倒れている血だらけの仲間を発見した。
「おい！ どうした！ 何があったんだ！」
セシルは仲間のもとへ駆け寄り声をかけるが返事はない。
「これは、いったい……」
呆然と立ち尽くしているセシルの後ろから、か細い声が聞こえた。
「セシル……」
声の方へ振り向くとポールが倒れていた。
「ポール、どうしたんだ、何があった？」
ポールに触れると血の感触がした。
恐る恐る確認すると手には血がべっとりと付着している。
ポールは弱々しくセシルを見つめ、力なく口を開く。
「急に、黒ずくめのやつらが、攻めてきて。
……セシルはいないか、って」
まさか、俺のせい？
俺を狙ったマーヤの手下がここへやってきて、俺の変わりにみんなやられたのか。
セシルは恐怖と怒りで体が震えた。
親父、親父はどこだ。
セシルが辺りを見回す。
窓辺でぐったりと座り込んでいるロジャーを発見した。
急いでセシルはロジャーのもとへと駆け寄る。
「親父！ 大丈夫か」
衣服には血の跡がたくさんあるが、彼の血なのか誰の血なのかわからなかった。
セシルの呼びかけにロジャーはゆっくりと目を開けた。
「セシル、か」
よかった、意識がある。
セシルは何度も頷いて見せた。
「ああ、俺だ、セシルだ！ ごめん、俺のせいでっ……こんな」
「馬鹿野郎、誰もおまえを恨んでなんかいない。みんなおまえを家族だと思ってる」
ロジャーが微笑むと、セシルはロジャーの胸に顔を
ごめん、ごめんと泣き叫ぶセシルを見つめ、ロジャーがつぶやく。
「おまえが無事でよかった……心配してたんだ」
ほっとしたような表情でロジャーは笑った。
セシルに付き添ってきた護衛たちが、手当てをはじめる。
三人の仲間はもう既に息は無いようで、首元に手を当てた護衛たちが次々に首を振っていく。
ポールとロジャーだけは、かろうじて生き延びることができた。
護衛の一人がこの状況をアルに伝えるため、城へと駆け出した。
報告を受けたアルは心の底からマーヤに
自分の母親ということ以前に、一人の人間として許せなかった。
人を
その血が、自分の中に流れているかと思うと、恥ずかしくてたまらなかった。
もうマーヤを放っておくわけにはいかない。
すべてを明かす時がきた。
アルは王とサラのもとへ走った。
「父上！ サラさん！」
アルが息を切らしながら、真剣な眼差しで二人を見つめる。
ティータイムを楽しんでいた二人は、アルの
「どうした？ そんなに恐い顔をして」
二人は不思議そうにアルを見つめる。
「大切な話があります」
アルはこれまでにわかった、セシルと
例えば、セシルはサラの子と同じ年齢。王子は行方不明でセシルは捨て子だったという事実。
そしてアルがセシルに感じる異様なまでの親近感。
さらには、サラが感じている母性のようなもの。
そして決定打は、あの毛布。
アルは事前にロジャーから貸してもらっていた毛布を二人に見せる。
「この毛布に刻まれている
王とサラは驚きを隠せない。
まさしくそれは、王家のものだった。
「まさか、本当にセシルはあの子なのか」
「私の子、セシルが……本当に？」
あまりの衝撃に、二人ともまだ信じられないというような表情をしている。
「それは、本当です」
突然、
三人が顔を見合わせていると、彼はいきなり三人の前で土下座した。
「申し訳ありません！ 私がマーヤ様から命令され、王子を捨てました」
それは思ってもみない告白だった。
ゲイトは毛布を指差した。
「その毛布は、私が王子に巻いたものです。せめて寒くないようにと。
彼はアル王子の兄上に間違いありません！」
サラはその場に崩れ落ちる。
「あの子が、あの子が生きてた……セシル、私の子っ」
「そうだな、生きていた。よかった」
王とサラは抱き合い、泣いて喜んだ。
アルも喜びを分かち合いたかったが、今はセシルが気になってしかたがなかった。
なぜかわからないが、早くセシルに会わなければ、という
アルは皆をその場に残し、城を飛び出していった。
