「セシル、おまえを拾ったときのことだ。まだ赤ん坊だったおまえは、この毛布に包まれていた」
ロジャーはどこからか取り出した古い毛布を差し出した。
その毛布はすっかり色あせ傷んでいたが、
「この
アルが突然声を上げ、毛布をロジャーから奪い取った。
驚きに満ちた表情で毛布を見つめるアルを見ながら、ロジャーは静かに頷く。
「その紋章は王家のものだろう?」
アルは戸惑いながら頷き、ゆっくりとセシルを見つめる。
「セシル……君は王家の人間なのか?」
アルの動揺ぶりに、ただ事ではないことが伝わってきた。
とても嘘をついているようには見えない。
セシルは突然突きつけられた真実にどう向き合えばよいのか分からず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
その後、アルは「改めて王宮へ来てほしい」とセシルに告げ、迎えに来たお付きの者と共に帰っていった。
ポールも思いもよらない真実に相当ショックを受けたようだったが、今はベッドの上で穏やかに寝息を立てている。
その切り替えの早さに感心するセシルだったが、そんな気楽な性格が付き合いやすく、ありがたかった。
セシルはいつものように屋根の上に寝そべり、星空を見つめながら今日の出来事を思い返していた。
俺が王家の人間だって? そんな馬鹿な。
ずっとスラムの人間として生きてきたセシルにとって、到底受け入れがたい事実だった。
「眠れないのか?」
ロジャーが暗闇から現れ、セシルの隣に腰を下ろした。
星を見上げたまま、セシルは静かに問いかける。
「なんで今まで黙ってたんだ、紋章のこと」
しばし沈黙が流れた後、ロジャーはゆっくりと重い口を開いた。
「普通、本物だとは思わないだろ? 似たような紋章だとか、偶然誰かが拾った毛布を巻いただけだろうとか……色々考えたさ。
でも、一番の理由は、おまえが離れていくのが怖かったからだ。
真実を知ったら、おまえはきっと俺なんかより王家を選ぶだろう。俺といるよりも王家に戻った方が幸せなのもわかっていた。
それでも、どうしてもおまえを手放したくなかった。
おまえは俺の子だ。誰が何と言おうと俺の息子だって、自分に言い聞かせてきた。
だが、おまえがアル王子のことを話したときに思ったんだ。
これが運命なんだろうって。おまえたちは出会うべくして出会ったんだ。
そして、俺はアル王子がおまえを託すに相応しい人間か、確かめたかった。
だからあんな手荒な真似をしてしまった。悪かったな」
ロジャーはいつもの父親の顔に戻り、穏やかな表情で微笑んでいる。
「アルは立派な奴だ。きっといい王になる。
おまえとアル、二人でいい国を作ってくれ。期待しているぞ、息子よ」
ロジャーは泣きそうになりながら、精一杯の笑顔を作った。いつも
セシルはロジャーを励ますように明るく笑った。
「なんだよクソ親父。
俺はおまえの息子だろ、これまでも、これからもずっと。
本当に感謝してるんだ、親父が俺を本当の息子として育ててくれたこと」
ロジャーの目から涙がこぼれ落ちた。同時に彼はセシルを強く抱きしめる。
「セシル……おまえは俺の子だ。
どこへ行こうとそれは変わらない。おまえは俺の誇りだよ」
ロジャーが抱きしめる腕に力がこもり、その気持ちがセシルの胸に深く伝わってきた。
二人が抱き合っていると、そこへポールが現れた。
「俺も忘れるなよ」
少し拗ねた様子のポールを見て、二人は思わず笑った。
「忘れてねえよ」
セシルはポールの手を引き寄せ、三人で抱き合う。
「俺もセシルのこと兄弟だと思ってるからな。いつでも頼れよ」
ポールはいつものようにセシルと拳を合わせる。
ロジャーはそんな二人の頭を撫でながら、笑った。
星空の下、三人は改めて家族の絆を確かめ合ったのだった。