「右と左どっち?」
ある日の放課後、
「……」
涼音はチラリと、スマホを見ていた目を涼香の手に向けるが、興味が無いらしく、すぐにスマホに目を戻した。
「右と左どっち?」
それでも涼香はめげなかった。再び同じことを繰り返す。
「……急になんですか?」
「質問で返さないでくれるかしら」
涼香は早く選んで欲しかった。早く選びなさい、と急かす。
「……右で」
このままでは埒が明かないと判断した涼音は適当に答える。
すると涼香は、パッと顔を輝かせ、すぐに曇らせる。
「どっちから見て右かしら……?」
「えぇ……」
涼音は涼香の右手をぺちぺち叩く。涼音から見て左、涼香から見て右の手だ。
「そう、こっちを選んだのね」
そう言った涼香が選ばれた右手を開く。するとそこにあったのはくちゃくちゃになった紙切れだった。
「ゴミを捨てろってことですか?」
それならわざわざそうしなくても捨てに行ったのに。
「それはどうかしら。この紙を開いて――ちょっと涼音、捨てようとしないで」
紙切れを持ってゴミ箱に向かった涼音を慌てて涼香が止める。ちょうど別れを切り出された彼女みたいな構図だった。
「紙を開いてみて」
言われた通りに紙切れを開いた涼音。中に書かれていたのは――。
「『先輩との記念写真撮影券』……?」
広げられた紙には涼香の手書きでそう書かれていた。
「そうよ、涼音にプレゼ――ちょっと捨てようとしないで!」
「じゃあ返品で」
「返品はできないわ!」
「なら売ってきますね」
下級生に高値で売れるだろう。絶対しないが。
「やめなさい。泣いていいかしら?」
「どうぞ」
「冷たいわね」
「そんなことより、なんで急にプレゼントなんか用意したんですか?」
『そんなこと』で片付けた涼音に、恐ろしいものを見たような表情を向ける涼香。
その後三十分にもわたり、プレゼントを渡す理由の説明をされた涼音、帰る頃には頭がスッキリしていたのだった。