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放課後にて 3

「右と左どっち?」


 ある日の放課後、涼香りょうかは前に座る涼音すずねに左右の手を握って差し出していた。


「……」


 涼音はチラリと、スマホを見ていた目を涼香の手に向けるが、興味が無いらしく、すぐにスマホに目を戻した。


「右と左どっち?」


 それでも涼香はめげなかった。再び同じことを繰り返す。


「……急になんですか?」

「質問で返さないでくれるかしら」


 涼香は早く選んで欲しかった。早く選びなさい、と急かす。


「……右で」


 このままでは埒が明かないと判断した涼音は適当に答える。


 すると涼香は、パッと顔を輝かせ、すぐに曇らせる。


「どっちから見て右かしら……?」

「えぇ……」


 涼音は涼香の右手をぺちぺち叩く。涼音から見て左、涼香から見て右の手だ。


「そう、こっちを選んだのね」


 そう言った涼香が選ばれた右手を開く。するとそこにあったのはくちゃくちゃになった紙切れだった。


「ゴミを捨てろってことですか?」


 それならわざわざそうしなくても捨てに行ったのに。


「それはどうかしら。この紙を開いて――ちょっと涼音、捨てようとしないで」


 紙切れを持ってゴミ箱に向かった涼音を慌てて涼香が止める。ちょうど別れを切り出された彼女みたいな構図だった。


「紙を開いてみて」


 言われた通りに紙切れを開いた涼音。中に書かれていたのは――。


「『先輩との記念写真撮影券』……?」


 広げられた紙には涼香の手書きでそう書かれていた。


「そうよ、涼音にプレゼ――ちょっと捨てようとしないで!」

「じゃあ返品で」

「返品はできないわ!」

「なら売ってきますね」


 下級生に高値で売れるだろう。絶対しないが。


「やめなさい。泣いていいかしら?」

「どうぞ」

「冷たいわね」

「そんなことより、なんで急にプレゼントなんか用意したんですか?」


 『そんなこと』で片付けた涼音に、恐ろしいものを見たような表情を向ける涼香。


 その後三十分にもわたり、プレゼントを渡す理由の説明をされた涼音、帰る頃には頭がスッキリしていたのだった。

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