ある日のこと。
「先輩、怖いんで一緒に寝てください」
時刻は二十二時、
動かざること山の如し、というかコアラみたいにしがみついていた。
「涼音、トイレに行きたいからどいてくれるかしら?」
「嫌です。一人にしないでください」
どうしたものか。
涼音はさっきからこの調子。しがみついてくれるのは別に構わないが、涼香はトイレに行きたいのだった。
「一緒に行きましょうか。涼音も夜中に目が覚めないよう、トイレに行っておいた方がいいと思うし」
「暗いの怖いです」
「LEDは明るいわ」
暇だったから、なんとな〜く、ホラー映画を観ようということになった。心霊系統が苦手な涼音に聞いてみると『ホラー映画? 一人じゃなきゃ大丈夫ですよ』なんてことを言っていたのにこのザマだ。
「だって先輩がトイレにいる間あたし一人じゃないですか」
「だって人が二人入れるほどの広さではないのよ、仕方ないわ」
それでも一緒に行きましょう? と優しく涼香は囁くが、涼音は涙目になりながら首を振る。
そろそろ涼香の限界は近い。だから涼香は頑張って涼音を持ち上げようとした。
「こうなれば……連れて……行くわ……」
「一人にしないでください……」
「だったら早く行きましょう」
持ち上げてしがみつく涼音を引き剥がしてベッドに涼音を降ろすと。
「待ってるわ!」
疾きこと風の如し、ではなく足をぶつけないようにゆっくりと部屋を出ていく。
「嫌だあぁぁぁぁ!」
その後を慌てて追いかける涼音。
今日の夜は長そうだ。