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博物館にて

 ある休日、涼香りょうか涼音すずねは県立の博物館に来ていた。


「見て、涼音。漢文よ」


 縄文時代から近代までの展示がある広い通路の中、二人が今見ているのは奈良時代の展示だった。


「漢文ですね」

「私古典はできないのよ」

「古典『も』できないんじゃないですか? あたしも古典は苦手ですけど」


 そんな博物館の静謐で厳かな雰囲気とは正反対の緩い会話をしていた。


 二人の覗く展示には万葉集の複製が置かれている。隣に釈分と読み下し分が書かれたプレートが置いてあるが二人にはなんのこっちゃ分からない。


「飽きたわ」

「えぇ……」


 縄文時代、弥生時代までの展示は興味深く見ていた涼香だったが、古墳時代から段々とダレてきたらしく、今の漢文で完全に集中力が切れた。苦手なものは悪である。


 残りの時代を無視するわけにはいかず、サッと読みながら展示通路を抜けていく。


「水族館に行きたいわね」

「お腹空いたんですね」


 二人は少し遅めの昼食に向かうのだった。

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