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授業中にて 2

 ある日の授業中。


「それでは、体育祭に出場する競技を決めようと思いまーす」


 前に立つ体育祭実行委員の気だるげな声がする三年生の教室。


「一人最低一競技、早い者勝ちね」


 黒板には百メートル走、障害物競走やモルックなど、十以上の競技の名前が書かれていた。


「誰よモルックなんて採用したの」

「流行ってるじゃん?」

「地味〜」


 そんな会話が繰り広げられる中、涼香りょうかは腕を組んで唸っていた。


(楽しそうな競技がいっぱいあるわね。でも狙うのは、当然アレね)


 特に涼香の目を引くのが肝試しだった。


 ルールは単純。校舎内の特定の場所に置いてある札を取って戻って来るという、よくある肝試しのルール。


 時間がかかるため、出場できるのは各学年一名。そのため、体育祭の超目玉競技だ。そして今年は涼香のクラスから一人出場すことができる。それを涼音すずねに伝えたら嫌な顔をされたけど。


「肝試し出たい人ー」


 実行委員の声がかかると、クラス内の全員が手を挙げた。


「じゃあジャンケンね」


 あまりの怖さに未だに札を持ち帰った者はいない競技なのだが、出場できるのは一学年一人という狭き門、故に大人気だった。ちなみに今までリタイア者しかいないので、どこまで進んだかによって得点が加算される方式だ。


 そしてそのジャンケンに涼香は負けた。運が無かった。


 だがしかし。


「涼香ちゃん、わたし勝ったよ!」


 そう言ったのは隣の席のここねだった。


「……おめでとう」

「頑張るから応援してね」


 微笑むここねに涼香は面白くなさそうに頬を膨らませる。


「そういえば、去年は菜々美ななみが出たのよね?」


 するとここねの表情は一転して曇ってしまう。


「うん、心に深い傷を追ってた……」

「やっぱりそんなに怖いのね」

「なにがあったのか聞いたんだけど――」


 そこまで言うと、ここねは顔を真っ青にして首を振る。


「そこまでなの?」


 ここねはコクコク頷く。口にすることすらできない恐ろしさなのだ。


 この肝試し、あまりの恐ろしさに出場者は口を噤み、そのため内容は伝わっておらず、事前対策ができないで有名だった。


 しかし今年は事前に情報を持っているここねが出場者だ。もしかすると初制覇できるかもしれない。


「私が出るまでもないわね」


 なぜか偉そうな涼香以外、クラスメイト達の期待の眼差しを一身に集めたここねは、両手を握りしめて奮起する。


「わたし、頑張るね!」

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