ある日の授業中。
「それでは、体育祭に出場する競技を決めようと思いまーす」
前に立つ体育祭実行委員の気だるげな声がする三年生の教室。
「一人最低一競技、早い者勝ちね」
黒板には百メートル走、障害物競走やモルックなど、十以上の競技の名前が書かれていた。
「誰よモルックなんて採用したの」
「流行ってるじゃん?」
「地味〜」
そんな会話が繰り広げられる中、
(楽しそうな競技がいっぱいあるわね。でも狙うのは、当然アレね)
特に涼香の目を引くのが肝試しだった。
ルールは単純。校舎内の特定の場所に置いてある札を取って戻って来るという、よくある肝試しのルール。
時間がかかるため、出場できるのは各学年一名。そのため、体育祭の超目玉競技だ。そして今年は涼香のクラスから一人出場すことができる。それを
「肝試し出たい人ー」
実行委員の声がかかると、クラス内の全員が手を挙げた。
「じゃあジャンケンね」
あまりの怖さに未だに札を持ち帰った者はいない競技なのだが、出場できるのは一学年一人という狭き門、故に大人気だった。ちなみに今までリタイア者しかいないので、どこまで進んだかによって得点が加算される方式だ。
そしてそのジャンケンに涼香は負けた。運が無かった。
だがしかし。
「涼香ちゃん、わたし勝ったよ!」
そう言ったのは隣の席のここねだった。
「……おめでとう」
「頑張るから応援してね」
微笑むここねに涼香は面白くなさそうに頬を膨らませる。
「そういえば、去年は
するとここねの表情は一転して曇ってしまう。
「うん、心に深い傷を追ってた……」
「やっぱりそんなに怖いのね」
「なにがあったのか聞いたんだけど――」
そこまで言うと、ここねは顔を真っ青にして首を振る。
「そこまでなの?」
ここねはコクコク頷く。口にすることすらできない恐ろしさなのだ。
この肝試し、あまりの恐ろしさに出場者は口を噤み、そのため内容は伝わっておらず、事前対策ができないで有名だった。
しかし今年は事前に情報を持っているここねが出場者だ。もしかすると初制覇できるかもしれない。
「私が出るまでもないわね」
なぜか偉そうな涼香以外、クラスメイト達の期待の眼差しを一身に集めたここねは、両手を握りしめて奮起する。
「わたし、頑張るね!」