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涼音の部屋にて 2

 ある日の深夜。


 スヤスヤ熟睡中の涼音すずねを、けたたましく鳴り響く着信音が襲った。


 無理矢理睡眠から引き上げられた涼音は、深海魚のように内蔵が飛び出しそうだった。


 こんな時間にいったい誰だ? そう思う前に、電話の主は涼香りょうかだろうと直感する。


 涼音は手を伸ばして鳴り止まないスマホを取る。暗い室内でスマホのバックライトが眩しい。


 目をこすりながら通話ボタンをタップし、スマホを耳に当てる。


「なんです『涼音! 出たわ!』


 涼香の焦った声が涼音の耳を突き抜ける。


 なにを焦っているんだろうか。真夜中に電話をかけてきているのだから大変なことが起きているに違いないが、寝起きということもあり、涼音の返事は少しのんびりになってしまう。


「でましたよ」

『涼音、出たのよ……』


 息を切らした涼香の声が聞こえる。


「なにがですか?」

『奴が出たのよ! 漆黒の刺客、NI☆N☆JAが――』


 その言葉に涼音の目は急速に覚める。寝起きのふわふわした頭を、冷静な思考が吹き飛ばす。


「え――⁉」

『目を離したら負けよ! 早く殺虫スプレーを!』


 クリアになった頭で涼音は考える。時刻は深夜の二時、ほとんどの人間は眠りについている時間だ。涼香は起きていても、涼香の両親は眠っているだろう。涼香の家へ助けに行こうと思っても、こんな時間に家に入るわけにはいかない。鍵を持っていないし。


 ということは涼音にできることはなにもない。


「頑張ってください」

『意地わ――』


 涼音が通話終了をタップする。だってどうすることもできないから。


 早く眠ってしまおう。そう思ったが、再び着信音が鳴り響く。


「なんですか」

『切らないでよ!』

「あたしもう寝たいんですけど?」

『眠っていていいから通話だけは繋いでいて!』


 もはや半泣きの涼香の声がスピーカーから聞こえる。


 仕方ない。涼音はバックライトの明るさを限界まで落として、枕元にスマホを置く。


「じゃあ繋いだままにしておくので頑張ってください」

『ありがとう……大好き……』

(こんな状況で言わないでくださいよ)


 目を閉じた涼音だったが、結局涼香の戦いが終わるまで眠れなかった。

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