ある日の放課後。
「ねえ
リュックに荷物を詰めていた涼音にクラスメイトが声をかけていた。
涼音は首を振ると、きつい言い方にならないよう気をつけて返す。
「あたしは遠慮するよ。みんなで楽しんできて」
涼音はこのような誘いには乗ったことがなかった。
涼香からは同級生と遊んだ方がいいわよ、と言われているが涼音にそのつもりは全く無い。理由は単純、涼香と一緒にいたいからだ。
「そっか、それじゃあまた明日」
手を振って教室を出ていくクラスメイト達に手を挙げて見送った涼音は、リュックを背負うと教室を出ていく。周りに人がいないことを確認すると、階段を登って三年生の教室へと向かう。
たまに終礼後すぐに三年生の教室へ向かうが、大抵の場合は他の生徒が帰った後に三年生の教室へと向かうのだった。
三年生の教室にたどり着くと、中では涼香が一人席で伏せていた。
涼音が教室へ足を踏み入れると、それに気づいた涼香が身体を起こす。
「なにかあったの?」
穏やかな表情を浮かべているが、涼音になにがあったのかを見透かしているようだった。
「なにもないですよ」
涼音がごまかしたことを涼香は分かっているにも関わらず、それ以上踏み込もうとしない。
「そう、今日はもう帰るのね」
そう言いながら立ち上がってリュックを背負った涼香が入口のそばで待っている涼音の下へとやってくる。
なにかあったのは知っている、それに踏み込むつもりはないし、涼音がなにもないというのならそれでいい。だけど一言だけ言わせて欲しい。
「無理しなくていいのよ」
優しくかけられたその言葉に涼音は口を尖らせる。
「先輩を迎えに来なくていいってことですか?」
「意地悪なこと言うのね」
涼音を優しく引き寄せて軽く抱きしめる。
「あたしが意地悪言うのは今に始まったことじゃないですよ」
いつもなら学校ではすぐに離れようとするのだが、今日の涼音は離れようとせず、そのまま涼香に抱きしめられていた。
人が来ないとは限らない、早く離れなければいけないのに涼音は離れられなかった。いつでも離れられるはずなのに、今日はもう少し、こうしていたかった。