「いいですか。ディズ君。12時きっかりに寝るようにお願いします!」
「寝つきは良いほうだ。多分大丈夫だ」
「私も寝つきは良い方です。とはいえこの辺は多少の誤差はしょうがないです。だからお互い再会するまで絶対に動かない様にしましょうね」
「お前に言われたくないんだが」
そんな会話をして昨日は別れた。手元のスマホを見る。23時50分。そろそろ寝るか。あいつ本当に同じ時間に寝るんだろうな。どうしても前回の記憶が抜けない。また捕まっていないといいんだが……。
考えても仕方ない。俺が少し早く向こうに着けばいいんだ。さっさと寝よう。
目を開けると知らない部屋にいた。知らないといっても昨日移動した部屋なわけだが。それにしても眼球がないのに目を開ける感覚はあるんだから不思議だ。
「リリアは……まだか」
カーテンを閉めた窓から外を見る。特に誰もいない。俺は玄関の方へ移動する。ゆっくり音を立てない様に移動し玄関の扉の前で止まった。音は聞こえないし、人の気配もないような気がする。とりあえずこの辺は安全と見ていい……のか?
「ディズ君! どこに行こうとしてるんです!」
「うげッ」
リリアが後ろにいた。くそ、タイミング悪すぎる。
「落ち着け、誤解だ!」
「何が誤解です! 現行犯です! 逮捕です!」
「違う。ただ安全を確かめようと……」
「そういって外にでようとしたんじゃないです?」
「出ないっての! 約束しただろ? 合流するまでここから出ないって!」
何でこんな訳の分からない言い訳を並べなくてはならんのだ。
「まあ。いいでしょう。じゃ早速移動です!」
「確かディズ君は昔、千代田区に住んでたんですよね」
「ああ」
昨日夢の話をした際にリリアに質問をされたんだ。どこに住んでいたのかって。
「千代田区が中心、つまり第0階層だと考えた場合、私たちがいる川口市から大よそですが23km程度です。それを13で割ると、単純計算ですが1階層の長さは大体2㎞ですね」
「思ったより広いな」
「ですね。とはいえ2㎞くらいであれば1日で移動は可能です。今日は一気に12階層まで行っちゃいましょう!」
「だな」
俺は壁に立てかけていた剣を拾い腰に装着する。そしてテーブルの上の銃を持った。
「私も何か武器が欲しいですね」
「だな。ただそのサイズの武器って何があるんだろうな」
「力はかなり強い方なのでサイズさえ合えば意外と何でも使えるかもですよ」
「フラグメントから何かいいもん落ちればいいんだがな」
そう言いながら銃を腰の袋に入れる。大きさが微妙に合わない。ぶっちゃけ邪魔だ。
「もう少し大きめの道具袋がほしいな」
「色々探さないとだめですね」
そういうとリリアは俺の頭の上に乗る。ここが定位置になりそうな気がする。っていうか妖精ってこういう場合は肩に乗るのが相場なのではないだろうか。
「じゃ出るか」
「あ、ちょっと待つです。ディズ君。ちょっとカッコよく移動しませんか」
「待て。言ってる意味がわからんぞ」
「ここは現実とは違う異界です。そしてディズ君は恐らくですが、そうとう強い覚醒者です!」
ビシっと音が聞こえそうな感じで手を伸ばして指を指している。……そんな様子を鏡越しにみている。
「つまり?」
「こう、ピョンってジャンプしながら建物の上を飛びながら移動しましょう!」
「意味が分からんが?」
「カッコいいじゃないですか! ディズ君のスペックならいけるはずです!」
「行かない行かない」
「いやいやいや! 冷静に考えてください。ディズ君は第1覚醒者として少なくとも数年はこの世界にいたはずですよね?」
「た、多分だがな」
なんだ。たまによくわからなくなるんだよな、リリアは。
「そしてディズ君は当時の事を殆ど覚えてないんですよね」
「ああ」
「きっと覚えてないだけでディズ君はもっとすごい事ができると思うんです。だからこれはリハビリです!」
「リハビリ……なのか?」
「リハビリです。よく考えてください。あれだけ爆発や銃弾を受けたのに無傷っておかしいです」
「それは確かに……」
丈夫な方だとは思っていたが流石におかしいか。
「でも俺って昔車にはねられた事あるけど無傷だったぞ」
「はいはい。よくある事故ったけど俺怪我しなかったぜってやつですね。違います。今はタナトスの中の話をしています」
なんだろう。急に恥ずかしくなってきた。今度からこの話するのやめよ。
「さあ。そこのベランダから道路の向こうの建物に向かってジャンプしましょう!」
「届くか!!」
向こうのビルって何mあると思ってんだ。
「行けます。最悪落ちてもどうせノーダメですし。行ってみましょう! あ、ディズ君……高所恐怖症だったりします? それなら無理強いできないです。走って移動を――」
「舐めんじゃねぇ!!!」
俺はリリアを掴み、窓を突き破ってジャンプした。