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第20話 子供の夢

「昔ですか……」



 リリアの声は非常に落ち着いていた。彼女は俺より頭がいい。流石に初日から幻想術ファンタズマが使えるという事を訝しんではいたんだろう。



「ディズ君。移動しましょう」

「移動? どこにだ」

「人気のない場所です。早いですが今日は寝床を探しましょう。ただし今回の反省をいかして静かに移動するんです。多分。人に聞かれない方がいいと思うですから」

「……そうだな」



 俺達は急いでその場を後にした。その後慎重に移動しながら周囲を警戒し街を移動していく。一応方向としては12階層方面に移動している。そして周囲に人気がない事を確認しながらマンションの中へ侵入した。出来るだけ姿勢を低くしながら階段を上がり適当な階数の部屋を破壊して中へ侵入する。そして入り口に物を置いて一応バリケードを作った。ここまでやれば流石に大丈夫だと思う。




「ささ。そこに座るです。飲み物とかあればいいですが……っていうかディズ君って飲みもの飲めるです?」

「さ、さあ。どうだろうな」


 顔が骸骨なんだが身体は筋肉で覆われているっぽいから飲めるのかもしれない。ただ舌がないっぽいんだよなぁ。絶対味しないだろ。



 俺は適当に床に座る。鎧が少々邪魔だが気にしても仕方ない。俺が座るとその正面に置かれたテーブルにリリアは腰を下ろした。ちょうど視線の高さが同じくらいになるからそこに座ったのか。


 リリアが座ると特に何も言わない。俺の言葉を待っているようだ。ただ足をプラプラと動かし羽がせわしなく動いている。落ち着きがないな。そう思いながらも俺はどう話そうか悩んだ。




「すまん。期待しているところ悪いんだが、多分リリアが望んだ話は多分出来ない」

「いえ。話せる範囲でいいです。ディズ君の事を教えてほしいと思ってます」

「そうだな。なんていうか、昨日この世界に来た時、妙な既視感があったんだ」

「既視感ですか?」

「ああ。ちょうどリリアと最初にあった時、空を見上げてな」




 そう。夜空に浮かぶ12個の月。それが凄く見覚えのあるものだった。




「空……あの妙に多い月の事ですね」

「ああ。俺が子供の頃。似たような光景を見た気がしたんだ。なんていうかな。小学生に入る前だから幼稚園の頃だったか。ずっと同じ夢を見続けていた時期があったんだ」

「ちょ、ちょっと待ってください! ディズ君が幼稚園生の時ですか!? 今確か高校1年生。16歳です?」

「いや、この間誕生日が来たから今は17歳だな」

「あ、おめでとうございます! ってそうじゃないです。幼稚園生って事は5歳くらいって事ですよね?」

「いや。多分3歳、4歳くらいの頃だったと思う」



 詳しくは覚えてないが、少なくともあの夢は引っ越しするまで視ていたはず。引っ越したのは小学1年生の時。つまり1,2年近くは見ていたはずだ。だからそのくらいだと思う。




「待ってください。つまり12,3年前って事です? あれちょっと待ってください。どうしてタナトスから離れる事ができたんです!?」

「多分だが……俺が引っ越したからだと思う」



 一度入ったら寝ると必ずタナトスへ呼ばれる。だが引っ越しをして物理的にタナトスのある世界の領域から出てしまえば呼ばれる事がなくなるって事か。



「引っ越し。つまり東京から離れればタナトスから逃げられる。……どのみち私たちには現実的な案ではありませんね。高校生ですし。あれ、でも12,3年前? もしかして……」

「ああ。多分この世界が最初に出来た時に俺はいた……と思う」

「つまりディズ君は第1覚醒者って事ですか。月桂樹のギルドマスターも同じ第1覚醒者なんですよね。もしかしてお知り合いだったりします?」

「わからない。でもあの頃、覚醒者っていうかこの世界にいた人は俺を含めても12人しかいなかった」

「12人……」

「ああ。もう昔過ぎて一緒にいた連中の顔とか名前とか覚えてないんだけど、それでも漠然と覚えていることもある」



 俺はそういうと自然と窓の外に視線を向ける。煌々と青く輝く月が妙に眩しく見える。




「どんな事ですか?」

「色んな姿の怪物みたいな奴がいて、俺達はそいつらといつも戦っていた。中心に大きな墓みたいなのがあって、俺達はそれの探検をしようとしていた」

「怪物……お墓……興味深いですね。怪物というのはキーウさんが言っていた深淵ノ悪夢アビスナイトメアの事でしょうか」

「さあ。どうだろう。その辺は覚えてないんだ。ただやたらと色んなものに名前を付けてるメンバーがいたのは朧気だけど覚えてる。確か幻想術ファンタズマとかナイトメアとかもそいつが付けたんじゃなかったかな」



 名前が出てこない。オなんとかだった気がする。いやそれ以外にも何かあったな。何かあだ名みたいなのを皆に作ってたような気がするんだがさっぱり思い出せない。




「お墓というのは?」

「確かこの世界の中心にあるものだったはずだ。凄い大きな樹があるんだ。本当にデカい樹だ。その樹に洞みたいな場所があってまるでお墓みたいだって誰がが言っていたんだ。それでその中に入ろうとした時、怪物が現れた」




 怪物。でも確かその中に……すごい懐いてくれた友達がいたような気がするんだけどなんだったっけ。





「もしディズ君が最初の覚醒者の1人って事であれば、月桂樹のギルマスも知り合いの可能性がありますね」

「ああ。そういえばそうだったな」



 くそ、全然思い出せない。こうなると知り合いの可能性が高い。一度会ってみる必要があるんじゃないか。



「行きましょう。ディズ君」

「は? どこにだ」

「月桂樹のギルマスの所にです。そこに行けば何かわかるかもしれません。それにもしかたらですが、そのギルマスが探している人はディズ君の事かもしれませんよ」



 確かに誰か探してるって言ってたな。



「でもそんな都合のいい話あるか?」

「基本ご都合主義歓迎の私ですが、今回はそうでもないと思います。恐らく急にこの世界からいなくなってしまった友人を探しているのかもしれません。流石に引っ越しでこの世界から逃げられるなんて早々思いませんよ。だから行きましょう。月桂樹のギルマスの所に!」



 漠然とどうすればいいか考えていたけど、確かに昔の知り合いかもしれない人がいるなら会ってみたいな。




「まぁその前にこの国の問題をどうにかしないとだな」

「そうなんですよね。とりあえず月桂樹のギルマスに会うのは中間目標として、一旦は第12階層を目指しましょう」




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