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第18話 後始末

 目の前の光景を見て俺は茫然としていた。まるで夢の中の話のような出来事に少し呆けている。


「これを……俺がやったのか」


 どこか非現実的な光景を前に信じられずにいるが、それでも何故かすんなりと受け入れられた。



「ん?」



 身体が光り、収まると視界がいつもより高い。どうやら元に戻ったようでホッとする。



「ディズ君! 敵の能力が解けたみたいです!」

「ああ。よくわかんねぇけど作戦通りって感じか」

「いやいや。あれだけ凄い事が出来るなら最初からやっていればよかったかもですよ!」



 どうだろう。向こうは俺の半身を人質にしていた。いくら頑丈でも自分自身の攻撃を耐えられるのだろうかと疑問になる。そうなると結果オーライだったのかもしれないな。



「凄いです! 映画の人みたいです!」

「あ、ああ。どうもな」



 妙なテンションになっているリリアの相手をしていると建物が揺れ始める。



「こりゃまずいか」

「ですね……」




 この廊下をほとんど全壊させた。多分建物のバランスが崩れたはずだ。ということは――ホテルが崩れるか? 急いでここから離れよう。そう思ったとき向こうに何か見える。



「あれは……」

「白いフラグメント……? それにあれは……ディズ君! 急いで回収しましょう!!」

「ちょ、リリア!」



 そういうとリリアはすごい速度で飛んでいく。俺はその後を追うように走り出した。いつホテルが崩れるか気が気ではない。上から小さな瓦礫が落ちてくる中、それを見つけた。




 白いキューブ……これはフラグメントか。そして剣だ。




「こりゃ……」

「早く拾って一旦ここから離れましょう!」

「そうだな」



 落ちているフラグメントと剣を拾い、俺達は走ってホテルを後にした。



「――――!」

「ん?」




 後ろから何か声が聞こえる。いや今は気にしてられない。リリアを掴みそのまま破壊された壁からホテルを脱出した。そのまま走り大通りに出て振り返る。地響きと煙を上げながらホテルがゆっくり崩れていく。



「もう少し離れましょう。多分一気に崩れる気がします」

「だな」




 そうして離れようとした時、後ろから声がかかった。




「お、おい! 逃げるんじゃない!! 魂の欠片ソウルフラグメント異質欠片アノマリーフラグメントを置いていけ!!」




 ネズミとカエルだ。ああ、そういや忘れてた。



「リリア。俺の後ろに隠れてろ」

「わ、わかりましたです」




 肩で息をしながらホテルから俺達を追いかけてきたようだ。震える手でネズミは銃を構えている。見ると既に分身しているようで少し離れた所に同じようにこちらに銃を構えたネズミがいる。




「て、てめぇ。何しやがった! なんだ今のはよ! 爆弾か? 爆弾でも仕掛けてたのか!?」

「とりあえず持ってる魂の欠片ソウルフラグメント異質欠片アノマリーフラグメント返せ!」




 他に誰か隠れている様子はない。ならこいつらだけのはずだ。




「立場がわかってねぇのはそっちだろ」

「はぁ!? 何言ってんだよ! こっちには銃があるんだぞ!」

「そうだ! それに人数だってずっと多い。お前はエイブと戦ってボロボロのはずだろ! 卑怯者め! 何やったんだ、よくもエイブを」



 そっちから襲ってきておいて調子のいいことを言いやがって。



「ヴァンダリム」



 そういって俺はデコピンでカエルを吹き飛ばす。加減はしない全力のデコピンでやる幻想術ファンタズマ。距離はそれなりに離れているお陰で威力も高い。カエルとその周囲の建物が吹き飛びカエルは白いキューブとなって消えていく。



「レオナルド!? くそ、いきなり攻撃しやがった! 喰らえ!!!!」



 一斉にネズミ達が俺に向かって発砲する。だが効かない。半分にされた時でも銃は対してダメージを受けなかった。鎧だけじゃない。生身の部分に当たっても痛くもかゆくもないんだ。身体が戻った今なら余計効くわけがない。

 俺は銃弾を受けながら前に足を踏み出す。俺が進むごとに向こうは一歩下がる。カエルが落とした白いフラグメントを拾い、銃弾を雨のように撃ち込んでくる。だがいくら浴びようがやはり効かない。



「ば、化け物め。どうなってんだよ。昨日来たばかりの覚醒者じゃないのかよ。返せ、返せ!!」



 見える範囲にいるネズミは6人。どれが本体か分からない。全部実体、本物がいるのか? まとめて壊せばいいのかもしれないがこれ以上派手に騒ぎたくない。




「ディズ君。1つ提案です」

「ん?」




 リリアが俺の耳の近くでぼそぼそと話をする。俺は話を聞きリリアの話を咀嚼する。




「いいのか」

「はい。精神衛生的にもそっちの方が……」

「わかった」






 さあ、この戦いの後始末を行おう。



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