エイブにとってこの襲撃はただのお遊びのつもりであった。敵と戦い、経験値やアイテムを稼ぎ、成長するというまるでゲームのようなこの世界を楽しむ覚醒者の1人である。
だから既に終わりが決まっているこの国にいること自体、エイブにとって非常に退屈なことであった。何度も他国へ行こうと考えたが、エイブがこの世界に来たのは3年前。ちょうど他国へ移動できる第9階層が侵略を受けている時期であった。その頃は弱く、幻想術を使うこともできなかったため、ようやく1人で奥の階層のナイトメアと戦えるようになった頃には第9階層は既に足を踏み入れることもできない魔境へと変わっていた。
Tチャンネルにおける自身の所属する国の評価に我慢できなかった。第11階層まで戦線を押された最弱の国。弱いナイトメアさえ倒せない滅亡の国と呼ばれ、この状況を楽しむ連中さえいる。そんな嘲笑される状況に自分が置かれているというのが我慢できなかった。だから少しでも状況を変えるために、他国への脱出作戦のために少しでも兵を得るために、強いギルドでいる必要がある。
だからこの作戦を知らされた際に、すぐにエイブは立候補した。同じチームのやつが殺されたというのはそれほど気にしていない。どちらかといえば、覚醒して初日で同じ覚醒者を殺したやつに興味を持ったからだ。
(面白いやつだ)
それが骸骨男改め、包帯男を見た感想だった。
エイブの持つ能力は叩いた人間を2つに割る力。使いどころが難しいがハマれば強力な力だと自負している。手のひらで叩くという制限はあるが、叩きさえすれば防御の上だろうが関係なく相手を割ることができる。
エイブの蹴りを受け、吹き飛んだディズを見る。もろに腹へ当たったがあの鎧のせいかほとんどダメージはないようで、その事実にエイブはさらに笑みを深める。素手で戦うのは相性が悪そうだ。なら少し手を変えようと考え、背負っていた長剣の柄を両手でたたく。
剣が割れ、元の半分の大きさの剣が2つに分かれる。1つはエイブの手に、もう1つはエイブの背に背負われた状態だ。さらに手に持った剣に両手を合わせさらに剣を2つに割る。本来の4分の1の大きさとなった剣、もはや短剣といってもいい大きさの剣を両手に持った。
「いくぜ」
そういうとエイブは手に持った剣をディズに向かって投擲する。回転しながら迫る剣をディズは横に飛ぶように避ける。だがその瞬間、剣が爆発した。強烈な閃光と破裂音と空気がはぜる衝撃がホテルのロビーを破壊していく。
「爆発だと!?」
煙の中から飛び出してくるディズを見てエイブは声を出して笑った。
「はははは!! マジかよ! あれでノーダメなのか? 意味わかんねぇ!」
「あの剣はなんだ!? 爆弾でも仕込んでたのかよ!」
「
エイブは懐から飴を取り出し口の中に入れ、それをかみ砕いた。口の中に広がる苦味に一瞬吐き気を覚えるがすぐに我慢してディズへ接近する。手に残ったもう1つの剣を振り下ろす。それを咄嗟に自分の腕の甲冑でガードするディズだったが、すぐさまエイブはその胴体を叩いた。
「”
「くそっ!」
エイブの攻撃を受けて、ディズの胴体にヒビが入る。銃弾を受けようが、爆発を受けようが傷一つ入らなかった鎧に大きくヒビが入っていた。
「やっぱり片手でも触れたらダメか!」
「なんだ、思ったより考えてんのか。そうさ、俺が2回叩けばどんな
後ろへ跳躍するディズを追うように手に残った剣を投げる。すさまじい速度で投げられた剣がディズの鎧に当たるとまた凄まじい爆発を引き起こした。自分の頬を空気が叩くのを感じながらエイブはカイウスとレオナルドに指示を出す。
「おい、煙から飛び出した瞬間を狙って攻撃しろ。ありゃかなり頑丈だ。あの爆弾剣を使ってもダメージが入ってるか怪しいもんだぜ」
「あ、ああ! わかった!」
「俺も攻撃すればいいのか? でももう眠気が来てるんだぞ」
「はぁ? お前の
「あの骸骨野郎を捕縛するためにどれだけ必要だったと思ってるんだよ!」
その会話を聞きながらエイブは舌打ちをする。元々ここまで本格的な戦いになるとは思っていなかった。相手は油断している。だからレオナルドの能力とエイブの能力のコンボであればほぼ相手を無力化できると踏んでいた。だが実際はどうだ。
あの敵はエイブの能力ですべて半分になったというのに
「失敗したな。素人だと思ったが、幻想タイプが相手の時点でもっと準備するべきだったぜ」
幻想タイプというのは覚醒者として目覚めた時点で常人以上の身体能力を持っている。本来はタナトス因子を多く取り込みようやく得られる肉体強化をあの連中は最初から持ち合わせている。
だから小柄な妖精であろうと獲得すれば大きな戦力になる。それがもう1人の幻想タイプと一緒に行動するというのは何とも言えない偶然だ。あの包帯を巻いたディズという男は存在自体は謎でしかない。だがその行動はすべて素人と言っていい。エイブはこのわずかな戦いで未知数の相手であるディズの事を見極めていた。
とてもこの世界で長く戦った熟練者とは思えない。戦いは間違いなく素人、持ち物が水しかないという時点でそれは明白だった。だから厄介な敵だろうが、初見殺しでハメれば十分だと考えていた。
「ヴァンダリム!!」
そう叫び声が聞こえ、また破壊された岩が煙の中から飛んでくる。レオナルドとカエサルはそれを必死に躱し、俺はそれを叩き落す。舞い上がった煙が晴れていくと、腰を落とし頭を抱えているディズの姿があった。
それを見てエイブはおおよその検討を付け、 この時点で、エイブは敵の作戦を見抜いていた。