「なぁ、そういう格好してるんだから……、興味あるんだろ? 結構、きわどいポーズも、撮影させてたし」
「そうそう。俺らとちょっと遊ぼうよ」
「コスプレしたままで良いからさ」
男三人が、コスプレイヤーを取り囲んでいる。コスプレイヤーは、柱に追い込まれたらしい。
(コスさんにセクハラするヤツは、許しちゃおけねぇな)
ただでさえ、会場にいる間、ずっと禁煙していたのを今更思い出して、大雅は苛立ち始めた。
「おう、なにやってンだ、テメェら」
大雅が声を掛けると、「はあっ?」と三人の男たちが振り返って、一瞬、怯んだ。
黒髪、オールバック、黒Tシャツ黒パンツという出で立ちの大雅の姿は、十分、威圧的だろう。
「レイヤーさん、困ってるだろうが! とっとと、離れろ!」
「はあ?」
男の一人が、大雅に向かって歩いてきた。
「おまえさ、なんなの? どーせ、見かけだけの陰キャオタクでしょ? 黙ってろって言うんだよ!!!」
「そうそう。痛い目に合うのは、お前の方だよ?」
「なにそれ。薄い本ってやつ? キモチ悪ィんだよっ!」
三人が殴りかかってくる。
コスプレイヤーが小さく「あっ!!」と声を上げたような気がするが、大雅は、気にしなかった。
両手に持った同人誌は、とりあえず、右手にひとまとめに持って、向かってくる男たちを左手で軽くいなす。
「はあっ!? 避けてンじゃねぇよっ!!!」
バランスを崩してよろけた男が、体勢を整えると、また、突っかかってくる。
(弱っちィ、パンチだなぁ)
と思いつつ、男の拳を受け止めて、そのまま、ぎゅっと握る。
「痛っ!!! 痛っぇっ!!! 放せよっ!!!」
「このまま、帰るんだったら放すが」
「な……っんだよっ!!! 誰がっ!!!」
男が、大雅の手を振り払って、パンチを繰り出してくる。思わず、大雅も手が出てしまった。男の頬に、拳がめり込む。男が、どたっと地面に崩れた。
一人の男を相手していたのは良いが、その間に、他の男たちは、思ってもみない行動に出た。
「誰か助けて下さいっ!!!」
「凶暴な男に、襲われてるんですよっ!!!」
などと大声で、助けを求めている。
「あっ……んの野郎っ!!!」
同人誌即売会は、様々な人間が来ている。
会社員や学生だけではない。現役の医者、警官、自衛官などは、当たり前のように会場に居る。
そういった人たちが、こういうときには、自分の萌えよりも優先して皆の安全を守る為に行動するのが、この同人誌即売会。
(マズイ……っ)
あちこちから、男たちがやってくる。警備員の姿も見えた。
状況的に、どうしようもない……。
「大丈夫かっ!!」
「そこの黒Tっ!! おとなしくしろっ!!!」
いかにも身体を鍛えているのが一目瞭然、という男たちが駆け寄ってくる。
大雅の身体を掴んで、取り押さえようとした、その時だった。
「違いますっ! その人、俺を助けてくれたんです! むしろ、こっちの男たちに、セクハラされましたっ!」
コスプレイヤーが声を上げてくれたのだった。
(助かった……)
大雅は、その時、初めて、そのコスプレイヤーの姿を見て―――熟読した小説の文章が、脳裏ではじけるのを感じた。
『流れる金色の美しい髪は、金糸の如く床に波紋を描く。白い
す、と通った鼻梁。薄い唇は、薔薇色をしていて、つややかに濡れて輝いている。翡翠のように美しい翠色の瞳は、長い睫が、またたきをするたび、影を落として、物憂げにも見えた……。』
それは、大雅がハマりにハマっている小説『天雨』こと『天よ、黄金の雨を降らせよ』の、呪われた宿命を持つ、美しき男巫女、サティシャ。
その姿が、この世に顕現したかのような、完璧な立ち姿だった。
「サティシャ……」
呆然と呟く大雅に、サティシャ・コスのコスプレイヤーは、眉を寄せた。
「このキャラ、知ってるの?」
「知ってるも何も……今日は『天雨』サークルしか、回ってこなかったくらいには……」
右手に持った、同人誌。その全ては、『天雨』本だ。
コスプレイヤーは、周りの男たちを見回して一瞥すると、涼やかな声で告げた。
「集まって下さった方たち、ありがとうございます……その人は、こいつらに囲まれてた俺を助けに入ってくれたんです。だから……その人は大丈夫です。こっちの三人には、勝手に尻とか腕とか触られて、どこかに連れ込まれそうになりましたっ!」
集まってくれた男たちは、「ちょっと詳しくお話しを聞かせて貰おうか」と言いつつ、三人の男たちに詰め寄っていく。
その姿を見ながら、大雅は「ざまあ」と思わず口に出したら、三人にぎろり、と睨まれる。
警備員に連れられて、とぼとぼと去って行く三人を見て、思わず大雅は吹き出してしまった。