目次
ブックマーク
応援する
4
コメント
シェア
通報

第2話 家族には見つかりたくないモノ


 お目当てのサークルに並んでいたのは良いが、あちこちから「新刊完売でーす!」という言葉が飛び交うのを聞いた時、大雅は本当に、同人誌を手にすることが出来るのだろうかと、青くなっていった。


(これなら、通販を頼んだほうが良かったか……?)

 同人誌専門の書店というのがあって、そこでは通販を受け付けているはずだった。有名サークルならば、大抵、そこで通販の扱いがあるはずだ。


(けど、家のモンに見られたら、さすがにマズイ……)

 想像してみる。


 同人誌(BL)がぎっしりと詰まった巨大な段ボールが家へ届く。



『オッ、坊ちゃん。随分、重くて巨大な荷物ッスね! なんかヤベェブツでも仕入れたンっスか!?』

 舎弟のヤスあたりが、段ボールを勝手に開封して、中身を確認する……。


 どう考えても、ピンクな肌色多めの、BL薄い本が、ザックザックと出てくるわけで……。



「いや、絶対ヤベェな」

 父親に見つかろうものなら、正座させられて、くどくどと説教を受けそうだ。


 それは、避けたい。家族には見つかりたくないモノ。それは同人誌。


 であれば、実際に足を運んで、購入するのが一番である。


 本当ならば、一人暮らしをして、家にBL祭壇を作り、毎日、祭壇を眺めて、にやにやしながら過ごしたいのだが、少なくとも、誰がすぐ入ってくるか解らず、鍵という概念がない、完璧純然日本家屋では、BLをオープンにして歩くことは不可能。


(世の中の腐女子のみなさんって、どんなとこに住んでるんだか……)


 やはり、可愛いお部屋だろうか。SNSでは、推しのグッズを祭壇のように飾り立てている写真をよく見かける。あれは、正直、うらやましいと思っている。


 良く、腐女子、喪女として描かれるのは『黒髪一本縛り』で服装もあまり拘っていないような感じの姿だが、少なくとも、周りの腐女子たちは、皆、髪型もゆるっと波打っていたり、小綺麗なカットソーにスカートをあわせた可愛らしい格好の人が多い。


 黒一色の大雅は、かなり浮いている。


 周りの腐女子たちはさておき、今ここで本を入手できないと、同人誌即売会まで足を運んだ意味がなくなってしまう。大雅は、祈るような気持ちで、列に並ぶ。列は、少しずつ、少しずつ、動いている。


(こんなに大量の同人誌……何部作ってるんだ……。いっそ、五億冊とか作って貰えねぇもんだろうか)


 そうすればヤキモキしなくても済むのだが……。


 サークルに近付いてくると、頒布スペースの様子が分かるようになっている。数名の人たちが(何人かは手伝いだろう)接客し、品物を渡し、後ろでは、新しい品物を段ボールから出し、段ボールを畳み……その一方で、スペースを訪れた業者か、編集者らしい人と応対し……と、一秒も休む暇がないほどの、壮絶な忙しさだった。


 それでも、笑顔を絶やさず、在庫を絶やさず、ついに同人誌を手に入ることが出来た大雅は、


「い、いつも、投稿サイトの方、見てますっ! また、更新、楽しみにしてるっス!!」

 と感極まって大声で告げてしまった。


 周りの腐女子たちの『早く退けよ』という冷ややかな視線に対して、スペース内で、ボロボロになって対応していたサークル主は、一瞬唖然としてから、へらっと笑って、


「嬉しいです。ありがとうございます……また、見に来て下さいね!」

 と対応してくれたところから、大雅は記憶が途切れている。




 大雅が気が付いたのは、大量の同人誌を両手に抱え、呆然と外を歩いていると、盛大に腹が鳴った時だった。


 腹の虫が、大雅を正気に戻したと言って良い。


「はっ! 俺は何をっ!!」

 とりあえず邪魔にならないように、端の方に移動をしてから、荷物を確認する。


 サークル配置図にチェックをした同人誌は、七割、購入している。その他に、通りすがりに気になった作品を片っ端から買っていたようだった。


「すご……、こんなに買えたんだ。やっぱ、同人誌即売会は違うなあ」

 薄い本ながら、内容は熱い。


 帰宅して読むのが楽しみだ、と感涙にむせび泣いていると「なあ、ちょっとくらい良いだろ」という、なんとも嫌な感じの声がしてきた。


(なんだ? こういう所で聞く台詞じゃネェなあ)


 荷物をしっかりと確保しつつ、声の方を見やる。大雅が居るところの、下の階に位置する場所。建物の死角になるような場所があって、そこに男三人。一人のコスプレイヤーを取り囲んでいるようだった。


(コスさん、妙なヤツに絡まれてンのか?)

 たしかに、セクハラまがいのことをされることはあると―――聞いたことはあるが……。


 気になったので、大雅は、階段を降りて下へ行くことにした。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?