2018年4月。
その犬は、鉱山に棄てられた。
ミニチュアダックスの老犬。
白内障で、視力は殆ど失われていた。
八重山保健所の譲渡ボランティアになってすぐ、引き出したのが盲目のミニチュアダックス。
預かりボランティアを務めてくれたAさんが、その犬に「こころ」という仮名を付けた。
肉体の目は見えないけれど、心の目で見られるようにとの願いを込めて。
こころは、人懐っこい甘えん坊。
一緒の布団に入って、ピッタリくっついて安心したように眠る。
保健所から引き出して自宅でシャンプーしてあげた後、一緒に昼寝をしたらずっとくっついてスヤスヤと気持ちよさそうに寝ていた。
こんなにも人の傍にいることを好む犬を、人が寄り付かぬ鉱山に棄てた飼い主は、無責任というよりも無情。
きっと愛情なんてカケラも無かったに違いない。
ペットショップで買ったオモチャか何かだと思っていたのかもしれない。
何も見えない、人の温もりがない山の中を、こころはどんな思いで彷徨ったのだろうか?
ひとりぼっちで、不安で寂しかったに違いない。
大人しく抱っこされるこころを抱き締めて、もう大丈夫だよって囁いてあげた。
譲渡ボランティアの役目は、保健所に収容された動物たちに新しい家族を見つけてあげること。
老犬はそう簡単には里親が見つからない。
Aさんは「もしも里親が見つからなければうちの子にする」と言ってくれた。
しかし驚いたことに、保健所から引き出して間もなく、里親希望する人から連絡がきた。
こころを連れて里親希望者さんの家を訪問し、1時間以上かけて話をした。
譲渡ボランティアの役目は、不幸な経験をした動物たちを、もう二度と不幸にしないこと。
初めての環境チェックと里親さんとの話し合いは、緊張しつつ慎重に進めた。
こころをずっと可愛がってくれることを確認して、トライアルに出した。
トライアル期間が無事に終わり、正式譲渡希望の連絡がきて、再び里親さんの家を訪問。
小部屋を貰ったこころが、嬉しそうに笑っていた。
はしゃいで動き回るのでブレ気味だけど、思い出深い笑顔。
「こころ」は里親さんから「はな」という名前を貰った。
半年後に再会したときも、嬉しそうに寄ってきてくれた。
可愛い「はな」。
どうか今度はずっと愛されて暮らせますように。