僕には悩みがある。
それは──うんちが七色なことだ。
十億人に一人の確率で七色のうんちが出る難病、レインボーうんちシンドローム。
一度患ってしまえば生涯、排便は必ず七色となる。
目立った害はないのだが、七色なのである意味目立つ。
「はぁ、どうしてこうなってしまったのか……」
そう呟きながら僕は家のトイレで大便をし、七色のうんちを今日も流す。
ネットの記事を書いているお医者さんが言うにはレインボーうんちシンドロームは極度のストレスが原因で発症してしまうそうだ。
原因ならある。
三年前、卒業と共に好きだった女の子に告白をして玉砕をし……今では恋愛恐怖症になってしまった。
僕が告白をした女の子は卒業と共に引っ越し、それから音信不通となった。
告白が原因で引っ越した、なんてことはないのはわかってはいるが、心のどこかでは「自分が原因なのではないか?」などと思うこともある。
そうして勝手に病んで勝手に苦しんで勝手にうんちが七色になった。
身勝手で身が七色、なんてこんなの誰にも相談できないまま高校を卒業することになるとは。
今日からは社会人として七色のうんちが出ることを隠しながら働いていく。
バレてしまえば会社のオモチャになって終わる、それどころか誰かが僕の排便している姿を盗撮しネットに上げ、僕はたちまちネットのオモチャへと格上げされてしまうだろう。
是が非でも、いや。
ケツが便でも回避しなければいけない。
でもきっと大丈夫。
高校生活だって一度もバレなかったんだ、この先なにがあってもバレない自信はある。
「よし、行くぞ!」
気合を入れて家を出て、今日からお世話になる会社へと足を運んだ。
「おはようございます。今日からお世話になる──」
初めての社員さんと目が合い、すぐさま挨拶をしようとしたのだが何の因果か目の前に居たのは三年前、僕が告白して玉砕したあの子だった。
「ぅうぐ……お腹が……」
中学時代の思い出が一気にフラッシュバックし、急激に腹痛を覚え、その場にうずくまってしまう。
……そうか、カルシウムが大事だって朝見てたテレビで言ってたから牛乳を飲み過ぎてしまったのか。
「だ、だいじょうぶですか?」
好きだった子が俺を心配している。
その言葉を聞いたらなんだか自然と頬が緩まり便意も緩まっていく。
「終わった……」
僕は入社早々、会社の廊下で七色のうんちを漏らした。
便が柔らかかったこともあり、パンツとスーツのズボンを貫通し、廊下に撒き散らしていく。
──その後のことはよく覚えていない。
過度なストレスのせいで気を失い、気付けば僕は会社にある医務室のベッドに寝かされていた。
「あっ、目が覚めたんですね。よかった……」
七色のうんちを撒き散らした俺を心配そうに見つめる。
「君が、ここまで? えーと、うーんこ……」
まずはお礼だろ、と頭の中ではわかってはいるが、あんなものを見せてしまった手前、すぐに言葉が出ない。
気持ち悪いものを見せてしまった、臭い思いをさせてしまった……罪悪感で死んでしまいそうだった。
「あなたもレインボーうんちシンドロームなんですね」
「……あなた、も?」
僕が尋ねるよりも早く、彼女のスカートの隙間から七色のうんちが垂れていた、あれはきっと嬉しうんちだったのだろう。
こうして僕たちは奇妙な経験をし再会を果たし結婚した。
七色のうんちは下品だが、七色の虹は綺麗だ。
このうんちが虹の役割で僕たちを繋げる架け橋になってくれたのだろう。