ある日、いつものように目が覚めると股間に生暖かさを覚えた。
まるで犬や猫が自分の寝ているベッドに潜り込んで眠りほうけている、そんなような生暖かさ。
だが俺は犬や猫どころかペットを飼った経験もないし、何故か動物には好かれない体質だ。
きっと奴らは俺を同族だと思い嫌悪しているのだろう。
他に例えるならば、彼女がサプライズで訪ねてきたが俺があまりにもイケメンな上に気持ちよく寝ていたのが羨ましくて布団に潜り込んでそのまま一緒に寝てしまった……なんてことは絶対に有り得ない。
俺はイケメンでもなければ彼女なんて生まれて一度もできたことがない。
「べ、別に彼女なんて今はまだ必要ないんだからな!」
なんて不必要な悲痛な叫びはこれくらいにして。
そろそろ起きなければいけない時間だし現実逃避をするのは止めようか。
今年で十七歳になるこの俺が、高校二年生になるこの俺が、まさかおねしょをするだなんて満を持っても有り得ないが、いや。
珍を持っても有り得ない珍事件だ。
「ふぅ、認めたくないものだな。おねしょと言うものを……」
恐る恐る掛け布団をめくる。
そこに存在したのは黒いアフリカ大陸だった。
いや、大陸なんてあったら俺は地球にでもなっているだろう。
アフリカ大陸に似た黒い模様だ。
エジプト王もニッコリするくらいの精密さだ。
それよりも──
「く、黒い……?」
まさか俺は血便でも出してしまったのだろうか?
恐る恐る黒いアフリカ大陸に似た模様に手を伸ばす。
ベタベタという感覚はなくサラサラしており、しょんべんとは程遠い香ばしい香りが部屋に立ちこめる。
「こ、コーヒー!?」
そう、俺のしょんべんはコーヒーの匂いがした。
まさか自分がジャコウネコのようにコーヒーを摂取したらそのまま高級コーヒーへと変えてしまうようになったのか?
いや、違う。
コーヒーなんて飲めないしあんな苦くて不味い黒い汁、大人になっても飲める気がしない。
元々コーヒーはどっかの国の囚人の刑罰として飲まされていたと聞く。
だからこんなもの飲めなくたって問題は無い……ないのだが。
「このしょんべんめちゃくちゃ良い香りがするっ〜!!!」
俺は自身の好奇心を抑えきれなかった。
夏の木に張り付くカブトムシのように俺は自分の布団に出来た黒いアフリカ大陸に鼻を近付け、気が付けば無我夢中で舐めまわしていた。
「う……」
「美味い!!! 美味いぞ、俺のしょんべん!!!!!!」
俺の目は冬空に輝く星のようにキラキラと輝いていたことだろう。
我に返った頃には黒いアフリカ大陸は消滅し、ヨダレでベロベロになった布団だけが残されていた。
「ハッ!? 俺はなんてことを……」
自分のしょんべんを舐めてしまった罪悪感と俺のしょんべんってうめぇ! という高揚感がせめぎ合っていた。
「たかしー! 早く起きなさいー! あなた今日から学校なの忘れてるのーーー!!!」
母の声だ。
アフリカ大陸をペロペロするのに時間が掛かってしまったらしく母が心配している。
まずい、この状況を見られてしまったら俺は終焉を迎えるだろう。
実の息子が自分のしょんべんを舐める性癖があるだなんて知られてしまったら俺は逆不登校にならざるを得ない。
すぐさま布団を裏返し舐めた部分を隠し、俺はすぐさま着替えて下に向かおうとしたがやはり俺の股間はおかしいらしい。
「なッ、ミ、ミルク!?」
俺の股間から白い液体が溢れてきている。
なんだか油分を含んだ白い液体だ。
そう、今度はコーヒーフレッシュが俺の股間から漏れ出ている。
なお、コントロールはできない。
止めどなく溢れる白い液体。
「な、なんでだ!? お、俺の身体、どうなってしまったんだぁぁぁぁあああ!?!?!?」
悲痛な叫びが部屋中に木霊する。
俺の股間は、いや。
俺のしょんべんは変わってしまったのだ。