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ep.12 出会い②

 リュシェ・ゼリアスと名乗った彼は、荷物を取りに行きたいと申し出たので、オク太郎に解放させた。

 洞窟から出てきた彼は先ほどとは見間違えるようだった。くくっていただけの髪の毛はしっかりまとめられていて、泥やら血やらで汚れていた服装も今ではしっかり整っている。


「やけに時間掛け勝っていると思ったら――」


 愚痴をこぼしながら彼の姿をもう一度見て気が付いた。黒と深紫でおられた外套マントの襟は顔の半分を覆うように立ち上がり長く鋭い。胸元には何かの紋章の描かれた黒鉄のプレートが付いている。汚れていて気が付かなかったけれど手袋の甲にも同じような紋章が編み込まれている。それに、マントの下の貴族のような服装……。


「もしかして、幻魔騎士団?」


 幻魔騎士団とは一種の社会伝説のようなもので、実際に存在するのかはわからない組織だ。社会の裏側で、魔法を取り締まっている組織で、政府の命令一つで街一つ消すような魔法使いの集団。殺し屋稼業も請け負っているとか何とか。

 黒いマントに鈍く光るエンブレム。聞いた話と完全に一致する。それにあのマントと手袋は何か嫌な感じがする。


「まあ、だけどな。そんな構えんなよ」


 彼はあっさりと告げたけれど、恐ろしいことを知ってしまった。彼の存在は、幻魔騎士団の存在を裏付けている。

 どんなに強い兵士も幻想のナイフミラージュナイフで刺せば簡単に勝てるけれど、最強の魔法使いの集団となるとそうはいかない。引き寄せる魔法アトラクトみたいな初歩的な魔法に引っかかるわけがないし、遠距離戦闘で私ができることは何もない。


「本当に存在するんだ……幻魔騎士団」


「存在はするさ。魔界にはいろんな連中がいる。万引き犯から禁忌の魔法を研究するやつまで。警察が対処できないやつを処罰する組織は必要だろ?」


 彼の言っていることはわかる。だけど、それだけなら――


「政府公認の組織でいいじゃないか」


「政府公認の組織が、人殺しじゃダメだろ。この世界はきれいごとだけじゃないんだから、誰かが汚れ役にならなきゃいけない」


 静かに語る彼の目に光はなかった。私なんかが知っている政府の悪事などほんの少しなのだろう。

 私が言葉に困っていと、リュシェは再び話し始めた。


「俺の一家は幻魔騎士団の一家でな、幼い頃から嫌というほど魔法の知識を詰め込まれた。父さんみたいに、兄さんみたいにエリートになりなさいって言われながら」


「お兄さんがいるんだ……」


「自慢の兄貴だよ。今は騎士団長だ。誰よりも強かった。そんな兄貴に憧れて、憧れてなくても入らないといけないんだけど、幻魔騎士団に入ったときは失望したよ。幻魔騎士団の実際の仕事は人殺しだ」


 一呼吸おいて、リュシェはつづけた。けれど、先ほどと違って目には光があった。


「だから、俺は魔界を変えるために旅に出た。すぐオークにつかまっちゃったけど」


 最後は笑い話で終わらせた。まだ出会って一日もたっていないけれど、彼は根っからの善人なのだろう。だからこそ、幻魔騎士団の仕事が耐えられなかった。


「幻魔騎士団の一員だったのに、オークにつかまったのはなぜ?」


「寝ようと思って入った洞窟がオークの巣穴だった」


「はあ?魔力探知とかしなかったわけ?」


 彼のあまりにも間抜けな回答に思わず声が出る。魔力探知を使わなくても、オークがいるのは見たらわかるだろう。


「いやあ、右も左もわからない世界で三日三晩迷ったもんだから、疲れ切っちゃって」


 てへへ、と笑う彼に呆れて声も出ない。本当に幻魔騎士団の一員だったのだろうか。なんかでかい失敗をやらかしてそうだし、やらかしそうだな。


「ところで、そのマントと手袋。何?」


 我ながらへたくそな質問だと思ったけれど、伝わったようだった。


「幻魔騎士団の制服だよ。このマントは他人の魔力干渉を防いでくれるんだ。だから魔力探知も攻撃魔法も効かないよ。手袋はただの魔道具だよ。魔力の流れを制御しやすいだけ」


 魔法が効かないか……。幻魔騎士団に狙われたら勝ち目がないな。うっかり出くわしたりしないことを願うしかない。


「そういうリティーのマントは何なんだよ。変な魔法がかかってるけど」


「これは神樹からもらった外套よ。呪文を唱えたら姿が見えなくなる。――こんな感じでね」


 一応効果を見せることにした。これからの仲間なのだから。


「魔力探知には引っかかるのか。ん?でも正確な位置はわからないな」


 顔をしかめながらリュシェは続ける。


「マントが魔力を出してるからドンピシャは難しいけど、何かがいることはバレるな」


「幻魔騎士団に目をつけられたら終わりだね。私たち」


「誰だって終わりだよ」


 そりゃそっかと二人で笑ったけれど、現実は変わらなかった。


「幻魔騎士団に見つからないようにするのはマストだし、うまく貴族を襲撃する作戦はあるのか?」


「オク太郎みたいな魔物をいっぱい仲間にしたら、魔力探知からは避けれるんじゃない?」


「いやいや、魔物一匹手なずけるのにどんだけ時間かかるかわかってんのかよ。どれだけ頑張っても3年――」


「0秒」


「は?」


幻想のナイフミラージュナイフで刺せば0秒でできる」


「は???????」


 そりゃそういう反応になるか。



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