「お兄が死んだのは私のせいなの。この村には不用意に村の外に出ちゃいけない掟があるのに、私はそれを破ったの。まだ小さかったし好奇心に駆られて森の奥のほうまで行ってしまったの。この湖より少し奥にある洞窟で、魔物に囲まれて、絶体絶命の時にお兄が助けに来てくれたの。私を抱っこして村に運んできてくれたけど、背中で弓矢やら魔法やらを受けてたみたいで……それが原因でなくなってしまったの」
懺悔にも聞こえる彼女の告白の声は終始震えていた。
「この湖にはよく来ていて、ここでこうやって星空を眺めていると心があらわれる気がするんです」
「でも……ここは村の外――」
「わかってます。掟を破っていることはわかっています。だけど……こんな命、なくなってもいいの。魔物に殺されてもいいと思ってここにいる。だけど、あれからいくらたっても私を殺しに来る気配がないんです」
妹を守って死んだ兄の気持ちはわからない。だって私は弟を守れなかった。救えなかった。だけど、彼女の兄が彼女を守った理由も兄の気持ちも理解できる。だからこそ――
「そんなこと言わないで……」
「え?」
「そんなこと言っちゃだめだよ。お兄さんはあなたを守って死んだ。守るために死んだ。あなたが死を望むのは兄の死に対する冒とくよ!」
ミユは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているけれど、気にせず続ける。
「私にも一人の弟がいた」
「いた?」
「もう死んでしまったの。火事でね。あの後何千、何万と後悔した。日の中に突っ込めば弟は救えたかもしれない。弟のためならこの命だって惜しくない。はずだった。だけどあの時に私は自分の命を懸けれなかった。私の愛は命より軽かった。だけどね、あなたのお兄さんの愛は命よりも重かったのよ」
後悔は何度だってした。何度だってしてきた。だけど、決めたはず。進むと。進み続けると。
「だけど、あなたの命。死を望むならそれでいい。だけど、私からのお願い。お兄さんが何のために命を懸けたか一度だけ考えてみて」
私の目を見て、静かにうなずく彼女と共に村まで帰った。一言も話さない帰り道だったけれど、彼女の手のひらは温かかった。
彼女が家に入るのを見届けたのち、忘れ物を装いある場所へ向かうことにした。